Review - A

Aklon Family/ASIAN KUNG-FU GENERATION/Alfie/Animal collective/Antony And The Johnsons/Aqualung/Arab Strap/Arcade Fire/Arctic Mokeys/Ash/Archer Prewitt/Asobi Seksu/Athlete/Attic Lights
Aklon/Family
Set Em Wild, Set Em Free
Surf’s-Up  NYはブルックリンのアクロン/ファミリーの新作。先日来日を果たし、なんと一部ではDeerhunterとジョイントもあった。何ともうらやましい。

 オープニングのEveryone Is Guiltyからいきなり強烈なグルーヴを叩きつける。スライを彷彿とさせる粘着質なリズムと民族的なメロディーライン。目まぐるしい展開を見せるこの1曲だけで、このバンドの凄みは十分に伝わってくると思う。60,70'sのアメリカンロックの影響が強いという印象を受けるが、この頃のネオ・フォーク・ムーヴメントを形成しているバンド達が、そこに実験性を持たせているように、アクロン/ファミリーもエレクトロニカやウォール・オブ・ノイズなど幅広い音楽性を自由に行き来している。

 こう言葉にすると、フリーキーなイメージが先行してしまうかもしれないが、最終的に聴き終わった後に耳に残るのはグッドメロディー。幅広い音楽性に耐えうるだけの力を持った素晴らしい楽曲が並んでいる。これまたこのアルバムの大きな魅力である。

 そんな中で自分が一番好きなのはTheAlps&Their Orange Evergreenというカントリーに近いフォークソング。風のようなメロディー、ギターのアルペジオ、シンプルな歌、全てが完璧な1曲。

 歌詞の内容はインディアンの詩を思わせるスピリチュアルなものが多い。彼らの死生観だけでなく、今のアメリカも感じられる深い歌詞である。そういう内容が反映されてくるのか、どの曲にも独特の緊張感が宿っている。重苦しいというのではなくて、祝祭的なテンションが漲っているのだ。もちろん今のアメリカは決して祝祭をあげるような状況にはないだろう。それでも、人に宿る魂だけはより高みを目指して旅を続けていけるよう、そんな願いがこめられた音楽だと思う。

おすすめ度★★★★☆(13/06/09)


ASIAN KUNG-FU GENERATION
ソルファ
 よくCMでも耳にしたり、スペシャを見ていても彼らのPVがよく流れている。実は以前に「君繋ファイブエム」は聴いていたのだが、僕はなぜか好意的に聴くことが出来なかった。メロディーもいいし、サウンド的にもエモっぽさだけではなく、いろいろなスタイルのギターロックであるということ、これは間違いなく僕のツボになるところなのだが、なぜかアジカンの音楽は僕の心には残らなかった。理由は分からないが、例えば歌詞が単なる抽象的な表現に終わっているように感じたし、もう一つこのバンドの個性みたいなものが伝わってこなかったりと、そういう細かなものが積み重なった結果であると思う。
 それなのにこの新作「ソルファ」を僕は楽しく聴いている。というのはこのアルバムでアジカンは大きな成長を遂げている(正確に言うとその前のシングルから)。まず曲であるが、もともとポップセンスはあるのだが、それが非常に磨かれて、特にシングルになったような曲はこれまでに感じられなかった「中毒性」を生み出すことに成功している。というか、開き直ったようにポップだ。ミスチル級の大衆性を醸し出しているのである。これは悪いことではなく、むしろ「伝えるべき事」をしっかり持っているバンドにとっては大きな武器となるものである。
 そして、歌詞の方も伝えたいことの輪郭が大分はっきりしてきた。起承転結やドラマをしっかり描けるようになってきた分、曲に対する思い入れというのも生まれてきた。これまで素通りするだけのサウンドが、熱と説得力を帯びてきたのである。まだバンプ級のドラマ性やシロップのように状況をストレートに描く力はないが、健闘しているしている方であると思う。そしてこういうものがしっかりと評価されてセールスもあげているという点、「日本も捨てたものではないな」というように思わせる。

 おすすめ度★★★☆(05/1/7)

Alfie
A Word In Your Ear
 決してメリーアンではございません。マンチェスター出身の5人組。ヴォーカルの声が、ティム・バージェスやイアン・ブラウンに似ているとのことだが、それはあまり感じない。ただ音楽性は幅広く、たまにローゼズがあったり、シャーラタンズもある。若干ロックよりなBDBとでもいえばいいか。器用さを感じさせるが、それが逆にこのバンドの個性を打ち消してしまっているような気がする。いい曲は多い(Cloudy Lemonade,Summer Laneは名曲)が、これがAlfieというのがない。その辺が寂しいところか。
 おすすめ度★★★(02/7/7)

Animal Collective
Merriweather Post Pavilion

Surf’s Up Animal Collectiveのニューアルバム。一昨年新作を出したばかりなので、かなり短いスパンでのリリースとなる。こういう場合、勢いが続くうちにどんどんつくってしまおうという意図が感じられることがあるが、今作はそういうことでもないようだ。

 ポップであるがどこか得体の知れないアニコレワールドは健在。でも、これまでと比べてずいぶん聴きやすくなったような印象を受ける。メロディーが重視されてきたというか、これまではあまり形にこだわらずにきていたものが、今作ではある程度まとめられているように感じる。曲の尺も割とコンパクトだ。この辺は物足りなさを感じる人もいると思うが、個人的にはこの方が彼らの良質のメロディーをより楽しめると思う。

 ただ、根幹の世界観は変わらずに、The Beach Boys「Smiley Smile」またはThe Beatles「Revolver」のごく一部を切り取って、純粋培養したようなサイケでカオティックな世界がただただ広がっている。サウンドの構造は、すごく入り組んでいるというわけではない。この手の音楽としてはトラックは割とシンプルだと思う。

 いや、シンプルというよりも「自然」という表現の方が当てはまるかもしれない。フリーキーでありながら、実に自然に見えてしまうところがある。自然界に存在しているかのように無駄が無く、有機的で生命力の脈がドクドクしてるんだけど、どぎつくない。恣意的なものを全く感じないのだ。このオーガニックさはそう簡単に出せるものではない。

 その「毒」の無さを物足りなく思う人もいるだろう。しかしながら、このように自然体を今貫けるロックバンドはなかなかいないのではないだろうか。強いて挙げるなら、Fleet Foxesあたりにも通じる揺るがぬ世界観を持ったバンドだと思う。

おすすめ度★★★★(20/02/09)

My Girl

Antony And The Johnsons
The Crying Light

Surf’s Up Antony&The Johnsonsの3rdアルバム。前作が高い評価を受け大ブレイクしたとのことだが、僕はこのアルバムが初体験。ルー・リードは彼の歌について「初めて彼の歌を聴いたとき、目の前に天使がいると思った」と表現した。あのルー・リードが、である。そもそもルーを紹介されたときも、アントニーはルーのプロデューサーに「たぶん、彼は君のこと好きじゃないと思うから、もし気に入らなかったらすぐにスタジオを去るように」と言われたらしい。しかし、結果的にはルーは彼をワールドツアーに帯同させ、レコード会社に契約するように招待状を書いた。歌の力とはすごいものである。

 このエピソードが物語るように、アントニーの歌が持つパワーはすさまじいものだ。ピアノと最小限のストリングス、そして彼の歌声だけ。しかし、そのどれもが途方もない高いレベルで研ぎ澄まされている。余計なものが無いと言うよりは、存在しうることができないのだ。

 アシッド・フォークのような浮遊感のある曲もあれば、ずっしりと重いゴスペル的なもの、ポップなテイストを持った曲もあるが、アントニーの存在感のある声がいい意味でアルバムを支配している。計算しているわけではないだろうが、自分の声の魅力を十分に知り尽くしていて、どの曲を聴いても最終的に耳に残るのは彼の歌。

 そういった意味では、その完璧さがいささか閉塞的に感じてしまうところがないわけではない。それでも、やはりこの時代に歌のプリミティヴなパワーだけでこれだけ感動させられるものを作れるのだなと、感心させられる。息を呑むような美しさ、と言葉にするだけでは伝えきれないような「凄み」のあるアルバムである

 そのような「凄み」を持ってして伝えたいことは何だろう。歌詞では自然に注目した内容が多い。単純に言えば失われつつある原風景に心を痛めながら、自分のあるべき場所を問うようなものが多い。リード・トラックAnother worldではタイトル通り「別の場所へ行きたい」という切実な思いを歌っている。

 暗闇に差す一筋の光。「いまわたしは陽光を切望する」と彼は歌う。しかし、それがどんな光なのか、何から発せられた光なのかは今はわかりようもない。それでもその光は途方もないくらい眩しく美しいはずだ。

 「自分たちの世界が暗闇にあるとしたら、そこに光が差したとしたら、君はどうする?」という問いにどう答えたらいいだろう。アントニーの答えはこうだ。

 「私が 光の中で泣いていても 許してほしい」-The Crying Light

 おすすめ度★★★★☆(28/02/09)




Aqualung
Still Life
 ピアノを中心としたプロダクションの中、美メロを聴かせるAqualungの2nd。本当に美しい曲を書くのだけど、最近よくありがちなメランコリアではなく、非常にスケールの大きいメロディーを書く。1曲目「Brighter The Sunshine」はビートルズのようだし。他の曲でもいいメロディー・メイカーの最良の部分をうまく受け継いだ、心憎いソングライティングを見せてくれる。またヴォーカルもいい雰囲気を持っていて、酒を飲みながら深夜のBGMにもってこいです。。残念なのは、構成的にちょっと単調になってしまっているところか。とはいってもそれなりに工夫しているところは見られるのですが、若干中途半端な印象を受けるので、もう少し極端なアクセントをつけてくれた方がインパクトがあって、アルバムの完成度が増すような気がします。
おすすめ度★★★☆(03/1/14)

Arab Strap
Monday at The Hug & Pint
 エイダン・モファットがROに「今宵すべてのパブで」というエッセイを書いていたのがすごく印象的で、興味があったのですが、なかなか手に入らないうちに、忘れていた一枚。1曲目が四つ打ちのディスコポップで想像と違って面食らったが、ストリングスの使い方が絶妙でかっこいい。ちょっとNew orderの匂いも感じる。アルバム全体としては、他にもMogwaiのようにノイズギターを中心としたナンバーや、音数の少ないメロウなナンバーもあったりとバラエティーに富んでいる。ただ、ストリングスをアクセントとしているところはどの曲にも共通している。ストリングスに関しては、使い方次第ではメロディーの本質的な良さを損なったり、くどくなってしまうという弊害もよくある。Arab strapもこれだけ、多用されているとその弊害も心配になるが、ストリングスと曲との相性をよく考えた結果なのか、あまりそう感じない。というよりはいい方向に働いていると思う。つまり「ストリングス負け」していないということである。それだけしっかりしたトラックが作られているということで、良くできたアルバムだと思う。個人的には、一枚聞き終えた時点では、お腹いっぱいという感じがしないので、ついまた聞いてしまう。これもエイダンの罠か?
おすすめ度★★★★(04/3/2)
いる

Arcade Fire
Funeral
 最近注目を集めているカナダのオルタナシーン。その中でも強烈に異彩を放っているのがこのArcade Fireである。アルバムタイトルの「Funeral」とはこのアルバムが完成するまでにメンバーの身近に起こった9つの葬式からきている。で、その通りこのアルバムからは生と死に関わる内容の曲で構成されている。
 ただ、そうなるとよくある展開では1曲1曲の曲調が割と統一的になり、全体的に重苦しくなってしまうことがある。しかし、このアルバムにはそういうところがない。それはテーマ的には共通していながらも彼らが様々なアイディアを駆使しているからだ。メランコリックなピアノが徐々に熱を帯びていく「Neighborhood#1」、アコーディオンのもの悲しい響きと、攻撃的なメロディーが不思議な味わいを出している「Neighborhood#2」、重厚なリズムが特徴的な「Neighborhood#3」、壮大なストリングスに載せてアコギをつま弾きながら寓話的世界を歌っている「Neighborhood#4」
そして「Crown Of Love」を挟み、ついにこのアルバムで祝祭的役割を果たしている「Wake Up」へとたどり着く。僕なんかは、この時点でかなりお腹いっぱいなのであるが、物語は続きレジーヌの美しくも悲しく聞こえる歌声が印象的な「In The Back Seat」で終わる。
 メロディー的にも素晴らしいのはもちろんだがやはりこのバンドの半端ではない表現力、これは一聴の価値が間違いなくある。自分たちの表現したい感情やテーマを思いっきり激情的にかき鳴らすという、ある種暴力的なグルーヴがこのバンドにはある。1曲1曲の沸点の高さは、最近聞いたものの中では間違いなく一番。カナダがどうとかこうとか言うのではなく、ロック・シーンの最前線にある作品として聞いてもらいたい。
 

おすすめ度★★
★★★(06/1/5)

Arctic Monkeys
Whatever People SayI AM,That's What I'm Not
アルバムタイトルがこういう名前であると、Reviewが非常に書きにくい。まぁ、一私見として語らせてください。Arctic Monkeysの1st、ネットで未発表音源がこれだけ堂々と出回る(しかもバンド公認)のも珍しいが、実際のところそれがバンドのアティテュードを体現しているのではないかと思う。
 インタービューからも分かるように、彼らは自分たちの音楽について細かく考えたり分析しようとはしない。アーティストならある程度のこだわりや意図を作品にこめるのは普通のことであるが、彼らにはそういう意図的なものがあまり感じられない。きっと自分たちでプレイしたものを、僕たちリスナーと同じように楽しんでいるんじゃないかというような気もする。実は誰よりも客観的に自分たちの音楽を楽しんでいるのかもしれない。
 で、結局そういう姿勢が音にも現れているように思う。今のアーティストにはあまり見られない圧倒的な「無邪気さ」がこのアルバムからは感じられる。で、この無邪気さこそがこのバンドをスペシャルな存在へと押し上げていると思うのだ。というのは、それこそがロックンロール本来が持つ魅力の一つだからだ。60年代の黎明期のバンド達と同じ立ち位置でこのアルバムは奏でられている。とはいえ、フレーズ一つ一つには過去の遺産から拝借したという部分も当然ある。新しい道を切り開いていく「開拓者」という感じではないが、聞いていて感じるのはこの音楽が「全く新しい」という不思議な感覚だ。
 アルバムの構造は、LPを意識したのか、1曲目から6曲目までは「I Bet You Look Good On The Dancefloor」に代表されるように勢いのあるナンバーが並ぶ。「I Bet You Look Good On The Dancefloor」は名曲であるが、この曲が浮き上がることが全くないくらい他の曲の完成度も高い。そして、7曲目「Riot Van」からアルバムの様相は大きく変わる。ミドルテンポのチューンが登場してくる。自分たちのメロディーをより伝えようとしているのか、どことなく哀愁のある彼ら独特のメロディーが聞き手に染み渡ってくる。
 がっちりと作り込むのではなく、ぶっきらぼうなところとよく練り上げたところを巧みに組み合わせて、このアルバムは作られている。そして、この組み合わせ方が見事に完璧なのだ。この完璧すぎるところが僕はやや引っかかったりするのだけど、これはやぱりひねくれ者の見方なのだろう。最終曲「A Certain Romance」の終わり方なんか聴いていると、「反則過ぎるよぉー」と言いたくなるんです。必聴。
 

おすすめ度★★
★★★(06/1/29)

Ash
Intergalactic Sonic 7'
 このベスト盤は濃ゆい。酪農家のところで飲む絞り立ての牛乳くらい濃い。これまでの代表曲を集めたディスク1,B面やアルバム未収録曲を集めたディスク2、ともに勢いのあるグッドメロディーが延々続く。今時これだけキャッチーなメロを書けるティムは本当にすごいなと思う。というよりはそのメロディーをこれだけ甘く臆面もなく鳴らせることがもっとすごいと思う。ストレート、ひたすらストレート。このバンドのアティチュードをすべてのバンドは見習うべし。真っ直ぐなことはかっこわるいことじゃないということを教えてくれる。ファンも初心者も買いでしょう。必ず好きな曲が見つかるはず。ちなみに僕のフェイバリットは「Walking Barefoot」
 おすすめ度★★★★☆(02/10/02)

Meltdown
 Ash渾身の4作目。噂通りヘヴィー路線。ジャケットも思いっきりヘビメタ。僕も最初はえらくハードで重くなったなと感じたが、聞き込むとそれほどに重さは感じなくなった。とにかくギターが突っ走る。エモによく見られる乾いたリフではなく、ちょっとメタル寄りのそれである。僕は全然ヘビメタは聴かないんだけど、マイケル・シェンカーとかこんな感じだったような気が(知ってます?)。つまりは、ギター・ヒーローのようなすごくメロディックなギターである。こんだけ弾いたら気持ちいいだろうなぁ。メロディーも噂通りのキャッチーさでメロディアスな曲ばかり並んでいます。TFCと同様に、Ashもメロディーが良くて当たり前なバンドです。
 ただ、個人的には前作がもうどうにも良すぎたために、どうしても比較してしまうと物足りない部分が出てきます。「Walking Barefoot」「Shining Light」「There's A Star」のような心を鷲づかみにされるような暴力的に切ない曲は今作にはないなとか。あえて、そういう曲をあげるとしたら、「Starcrossed」、ボーナストラックの「Tinsel Town」くらいでしょうか。ちなみにこの「Tinsel Town」。このアルバムの中でピカイチです。詞といい中盤から上り詰めていく感じといい最高です。絶対に買うなら日本盤を。また、ヘビメタやハードロックが大嫌いな人には辛いアルバムかもしれません。明らかにハードロック的なフレーズやリフも含まれているので、その手の音楽に免疫のない人だったら拒否反応が出そうです。
 それでも、近頃の「いい曲を書くバンド」のなかでも群を抜いた質の高さに変わりはありません。「絶対に良いものを作る」と信頼できる数少ないバンドです。またバンド側もそういった聴き手の信頼に正面から応えようとしているように思う。ティムの迷いのないギターと歌とメロディーを聴けば必ず伝わってくるはず。
 おすすめ度★★★★☆(04/6/2)


Archer Prewitt
Three
 シー・アンド・ケイクのギタリスト、アーチャー・プレヴィットのソロ作。シー・アンド・ケイクはそこそこ好きではあるが、僕にとってこれまでどこか敷居の高いバンドであった。あのシカゴ界隈のバンドの中ではかなりポップで、いろいろなアプローチを試みながらも、非常にベーシックなスタイルの音楽を聴かせようとしている。よってとても親しみやすいはずなのだが、なにかが足りない、そんな思いを持っていた。
 このアーチャーのソロ作はスタイル的にはシー・アンド・ケイクをよりアップにした感じで、非常に聴きやすい。曲もよりキャッチーで、評判が高いのも頷ける。ポール・マッカートニーやビーチ・ボーイズが引き合いに出されるのもよくわかる。メンバーの中には、あのブライアン・ウィルソン・バンドのポール・マーテンスやエルヴィス・コステロやニック・ロウのバックを務めていたスティーヴ・ゴールディンもいて、非常に熟練したプレイを披露していて、それがアーチャーの素晴らしいメロディーをとてもわかりやすく伝えてくれる。若者には刺激の足りない音楽かもしれない。シーンを変えるような目新しさもない。しかし、「素晴らしいポップソングは、どんなに時代が変わろうとも人の心を打つ」という確信がみなぎっている作品である。シー・アンド・ケイクに足りなかったのは、そういった世間に対する自分たちの音楽の力への確信だったのかもしれない。
 おすすめ度★★★☆(02/7/7)

Asobi Seksu
Hush

Surf’s Up NY,ブルックリンを拠点とするAsobi Seksuの3rd。音楽雑誌等ではネオ・シューゲイザーの旗手として取り上げられることも多いこのバンド。アメリカ人男性と日本人女性のユニット(かつてはバンドだったらしい)である。ただ、例えばマイ・ブラディ・バレンタインみたいなものを期待したら間違いなく肩透かしに終わる。唸るフィードバックノイズに身を任せたい、そんなことを期待してもやはりだめだ。

 あえてカテゴライズすると、サイケでドリーミーなポップというほうがしっくりくると思う。シューゲイザーというよりはバックトラックはポストロックに近いかもしれない。重厚なタイプではなくて、ほどよく隙間のあるタイプである。そこにフックの強い歌メロがバランスよく絡んでいる。

 穏やかなオルガンに柔らかな歌声が響く聖歌のようなLayersで幕を開けるが、2曲目Familiar Lightから様相が一変する。祈りのようなユキの歌声はそのままだが、サイケデリックなシンセサイザーに乗って、より破壊力と開放感を演出している。そして、地を這うようなトライバルなビートに、エモーショナルな歌メロのSing Tomorrow's Praiseでその祈りは頂点に達する。4曲目Glissからは少しシフトダウンして浮遊感のあるポップが続く。その後はシンフォニカルなIn The Sky、Deerhunterのような漆黒のトラックに日本語の歌詞で歌われるMeh No Mae(メノマエ)、叙情的で美しいI Can't See、展開がネオアコっぽいMe&Maryなど幅の広いサウンドを聴かせる。

 ライナーノーツを見る限り、二人の音楽性の嗜好に違いがあって、融合することで独特の世界観を形成しているという印象を受ける。お互いに主張しすぎないところがまたいいような気がする。認め合っているというか、互いの良さを自分が引き出すというようなスタンスがすごく感じられる。日本人である自分としては、日本語歌詞が若干恥ずかしく感じられるところもあるが、女性ヴォーカルが苦手な自分がここまで入り込めたロック作品はそうはない。

 おすすめ度★★★★(16/02/09)

Me&Mary


Athlete
VEHICLES&ANIMALS
 以前からシングルが高く評価されていたバンドであったATHLETEのファースト・アルバム。シングルはどれもいいメロディー揃いで期待していたが、その期待通りの素晴らしい作品を届けてくれた。1曲目の「エル・サルバドール」からミドル・テンポの曲が次々と繰り出される。リフレインを多用しながらじわじわと高まっていくメロディーは、確かによく引き合いに出されるペイヴメントなどのUSローファイ系に近い感じである。ただ、彼らのメロディーの方が前者よりも、ずっと聴きやすい。それはポップさと美しさが強調されているからだと思う。サウンド的にはエレクトロニックを上手く使い、不思議な味わいを醸し出している。そして、アルバムを聴いて気づいたのだが、ヴォーカルが素晴らしい。この手のバンドの中では、すごくエモーショナルな歌い方ができている。5曲目「ビューティフル」は特にその男気のある歌が堪能できる。
 新人ながら、非常にツボをよく知っていて、全体的によくまとまったアルバムである。ただ、アルバムの後半になると、ややだれてしまうところと、少々まとまりすぎであるところ、これらをいかにして克服するかが、今後のキーポイントとなってくるだろうと思う。それらを可能にするアイディアと技量はきっと持っているだろうから。
 おすすめ度★★★★(03/5/23)

Tourlist
 前作は独特のポップさを持ったメロディー、随所に観られる電子音、そしてソウルフルな歌が不思議に絡み合う様が心地よく、よく聴いた一枚だった。今作は基本線は前作の延長戦であるが、メロディーのスケールが大きくなっている。オープニングの「Chances」はシンプルなピアノから、突如ストリングスが加わり、一気に「泣き」へと展開していくという、Coldplayも真っ青の叙情的な曲で、この曲だけ聴くと非常に安直な変化にも感じるのだが、その後は彼らなりにいろいろなアプローチを試みている。結果的に成功していたりもう一つと感じるものもあるのだが、全体的にはどの曲にも光るメロディーラインがある分、最後まできっちりと聴ける作品に仕上がっている。ただ、最初に述べたとおり前作の延長的な要素も多いので、新しいリスナーを開拓できるような力はないかなと思う。UKで1位になったそうだが、好きな人は安心して聴けるし、求めているレベルには十分に足していると思う。いささか「手堅すぎる」部分が気になるけれど。
 
おすすめ度★★★
★(05/5/21)

Attic Lights
Friday Night Lights

Surf’s Up Attic Lightsの昨年リリースされたデビューアルバム。。元々シングルが高い評価を集め、満を持してのアルバムリリースといったところだ。このバンド、ギターロックの聖地グラスゴー出身なのであるが、地の利を生かし、グラスゴーやスコットランドで活躍するミュージシャンの参加が多い。
 シングルのリミックスをヴァセリンズやフラテリスが担当。このアルバムのプロデューサーはTeenage Fanclubのフランシス・マクドナルド。ブックレットにはあのダグラス・T・スチュワート(BMX Bandits)の名も。グラスゴー・コミュニティーの中から生まれた1枚といってもいいかもしれない。

 1曲目のNever Get Sick Of The Seaが思いの外エモっぽくて、最初は面食らったが、その後はいわゆるグラスゴー・ギタポの特徴である、甘いメロディーにざっくりしたギター、必殺のコーラスワークが全開となっていく。また、所々にストリングを配置しているが、叙情性を高めるというよりは、壮大なスケール感を持たせるアレンジとなっている。3曲目Wendyはまさにハイライトとも言えるアンセムナンバー。Walkie Talkieのようなフラテリスばりの軽快なロックン・ロールもあって、一口にはくくれないほどバラエティーには富んでいる。「良質のギターロックを集めてみました」というようなところからも、今のグラスゴーのコンピレーション・アルバムみたいな感もある。
 個人的には「Songs From Northern Britain」期のTFCを想起させるBring You Down,Nothing But Loveが好き。本家が近作そういうサウンドから遠ざかっているので、逆に新鮮に聞こえるところがある。
 バンドの個性とも言える部分はまだ明確になっていない感じはするが、ソングライティングの力は確か。あとは、どういう肉付けをしていくかだろう。まとまりの良さから生じるインパクトの弱さをどう克服するか、そこが楽しみ。



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