Review - B

Badly Drawn Boy/Band Of Horses/The Beach Boys/The Beatles/Beck/Belle&Sebastian/Black kids/Bleu/Bloc Party/Blur/Brian Wilson/Bright Eyes/British Sea Power/Broken Social Scene/Bruce Springsteen/Bump Of Chicken
Badly Drawn Boy
About A Boy
 「酔いどれ詩人」「ベッドルームシンガー」などと語られることの多い彼の今作は、ニック・ホーンビィ(大好きである)の小説の映画のサウンドトラックである。デビュー作「The Hour Of Bewilder Beast」は、甘いメロディーをアイディア豊富なやり方で聴かせてくれた。もちろん大好きな曲もたくさんあるが、時折もっとストレートなアプローチで聴かせてほしいと思うこともあった。
 今作は、依頼を受けたBDBが原作小説を読んでインスピレーションをもとにアルバムを作ったとのこと。そしてこの手法が見事に彼のメロディーの魅力を引き出すことに成功した。小説の世界を忠実に再現しようというモチーフによって、演奏もシンプルになり、メロディーは優しく甘美に鳴り響いている。デーモンの歌声も素敵である。中毒性はかなり高い。正直言うと「The Hour Of Bewilder Beast」よりも好きかもしれない。北海道はつい最近まで桜がきれいだったのだが、ドライブしている車の中のBGMとして、このアルバムはひたすらマッチしていた。
 おすすめ度★★★★★(02/5/13)
  

Have You Fed The Fish?
前作「About A Boy」でスタンダードもガンガンいけるという力量をいかんなく発揮したデーモン・ゴフ。この新作では、彼本来の奇天烈さを醸し出したポップソングが聴けるのかと思ったが、意外とストレートに、ふつうにいい曲満載のアルバムとなった。「About〜」では、映画のサントラであるという制約がいい方向に生きた、という風に押さえていたが、彼本来のスタイルとは違っていて、きっと次の作品では一筋縄行かない、おもちゃ箱ポップスが待っているのだと僕は強く確信していた。しかしながら、本作は大きくシフトチェンジされたものではなく、わりかし素直にメロディーを鳴らしている。はっきり言えば「About〜」と前々作「The Hour Of Bewilder Beast」の中間作。だから演奏と楽曲のバランスはすごくよくとれている。
 ただ、彼の魅力はこのアルバムからはもう一つ伝わってこないようにも思う。やっぱり、ベッドルーム的手法とエルトン・ジョンやバート・バカラックのようなスタンダード性を持った作風のこの二律背反的な振幅こそが彼の魅力ではないだろうか。やるなら、とことんやる。もっともっと時間をかけて突き詰めて欲しかった。「ポップスとは毒である」と桑田佳祐はかつて語ったが、そこに自覚的なデーモンであるからこそ。
 おすすめ度★★★(02/11/17)

One Plus One Is One
 正直言うとこのアルバムのどこが「わかりにくい」のかが分からない。「メロディーにフックがない」という意見は分からないでもないが、デーモンの場合そのフックが強過ぎる部分もあるので、僕としては今作のように若干抑えめの方がちょうどいいくらいである。前々作「About A Boy」はまさに映画のサントラというある種の「制約」が逆に彼のポップネスを全開とさせるいい効果をもたらしたアルバムで、今もよく聴くくらい好きな作品である。前作「恋を見ていた少年」は逆にポップネスを追求しているのか、それとも複雑なサウンドプロダクションを主としたいのかイマイチよく分からなかった。デーモンの努力の跡はすごく伺えるのだけど、かえってくどさを僕は感じた。
 しかし、今作はそのくどさが取り払われ、どの曲もシンプルな構成になっている。メロディーも今までのような即効性はない。ただ、聴けば聴くほどじんわりとその良さがわかるのだ。たぶんデーモンは今までのような曲を書こうと思ったら、いつでも書けると思うのだ。しかし、今回は意図的に「わかりやすさ」というところから離れた、「いい音楽」を追求しようと考えたのだと思う。そこで、メロディーもサウンドの装飾もあえて抑えたのではないだろうか。だが、この「抑え」加減が本当に絶妙だ。「内省的」だなんて、とんでもない。むしろこの形の方がデーモンの「生身」がさらけ出されているように思う。この微妙な痛々しさをどう受け取るかによって好き嫌いが分かれそうだ。
 おすすめ度★★★★★(04/7/18)


Band Of Horses
Cease to Begin
 シアトルで結成されたBand Of Horsesの2枚目。サブ・ポップからのリリースであるが、ゴリゴリのグランジではない。いわゆるオルタナ・カントリーか、フレミング・リップスやマイ・モーニング・ジャケットのようなポップセンスを持ったサイケ・バンドの一つとして数えられているとは思うが、その中でも清冽で叙情的なメロディーラインが光るバンドだと思う。
 そして、その叙情性もいろいろな出し方ができて、ある曲ではエモっぽかったり、また耽美的なメロディーであったり、ブライアン・ウィルソンかと思うくらいポップだったり、いろいろな変化球を混ぜてくる。
 このように雑多な音楽性を持っていながら、マイ・モーニング・ジャケットの新作ほど多岐にはわたっていないし、とっちらかった印象も受けない。それは、どのナンバーにもどこか土着的なフィーリングがあるからだ。アメリカという地がもたらすものなのだろうか、いわゆるアメリカン・ロックというものに共通する、乾いてるけど滑らかな感触。初期のニール・ヤングやCSN&Yなどのレコードから伝わってくる空気。そういうものがある分、落ち着いて聴けるのがこのバンドの強みなのかもしれない。
 非常に良くまとまっていて、心地よく聴けるアルバム。でも、メンバーはまだ20代らしく、それにしては老成してるというか、「まだ若いんだから」と声もかけたくなってしまう。
 サマソニでしっかり見てきます。

おすすめ度★★★★(08/05/08)
Is There A Ghorst

 


The Beach Boys
California Feelin'〜The Best Of The Beach Boys selected by Brian Wilson
 以前から噂されていた、ブライアン選曲のベスト盤。かの名盤「Petsounds」が本国アメリカで振るわなかったのは有名であるが、実はイギリスでは高く評価され、「Petsounds」はイギリス人には熱狂的に迎え入れられた。そして、「Good Vibration」以降アメリカで下火になっていったのとは対照的にイギリスでは人気が過熱し、68年にはアーティストの人気投票でビートルズを抜くのである。なんとも、「らしい」エピソードである。ブライアンの完全無欠なポップソング、ひたすらアメリカ的であったバンドが突然奏でた「Not American」な音、ポール・マッカートニーが受けた強いバイブが「サージェント・ペッパーズ〜」につながっていったように、この音を受け入れる素養はイギリスにしかなかったのだろう。そして、そんなところが昔の僕のUK志向につながってたように思う。
 ブライアン選曲ということであって、いわゆるアメリカ人好みのホットロッドナンバーは少ない。しかし、60年代後半、これをイギリスで出していたらきっととんでもなくヒットしただろう。というくらいツボをついた選曲となっている。過度にマニアックにならず評価の高い代表曲の中にこれまでだったら絶対に入らないような曲も盛り込まれている。あの大名曲「Surf's Up」(このHp名の由来となった曲です)も収録。ファンの方であるなら、「なんでこの曲入っていないの?」というのはあるだろうし、それほど新鮮味はないだろうが、ブライアン・ウィルソンに興味のあるビギナーの入門盤としてはこれほどうってつけなものもないのではないか。ちなみに村上春樹さんがライナーを書いています。
 おすすめ度★★★★(02/7/13)


The Beatles
Let It Be...Naked
 僕はBeatlesかなり好きな方である。が、世の中にはきっともっともっと熱心な方がいるのも知っている。だから、あんまりあれこれいうのもいつもおこがましいような気がしている。しかしながら、例えば同じ職場の人間が知っている洋楽のバンドといえばBeatlesとあとわずかしかいないわけで、そんな中でつい彼らの話題が出てきたら、ついつい熱く語ってしまう。
 実は昔、Beatlesのことを偉そうに語る人間が嫌いな時期があった。とはいっても、Beatlesをリアルタイムで聞いていたような人たちには何の恨みもない。嫌いだったのは自分と同じくらいの世代の人たち。僕ら世代のファンには、前期ビートルズを評価していない人が多い。「リヴォルヴァー」や「SGT.ペッパーズ・・・」あたりには詳しくても、「Beatles for Sale」の話は全然出てこない。実際僕の大学時代の後輩は、初期ビートルズを「オリジナル曲が少ない」という点で評価していなかった。しかし、本当にビートルズのことをわかっている人たちは、前期のすばらしさをよく知っている。初期ビートルズにはロックンロールのすべてが詰まっている。ロックの歴史が流した汗や血や涙がそこにすべて収録されているといっても過言ではないくらい、重要な要素がぎっしり詰まっている。これをリバプールの若者4人が作り上げ、世界を変えてしまったことは、山川出版の「世界史」に載せてもいいくらいである。と、個人的に思う。
 そして、先ほど述べたような、さむいビートルズかぶれは、とかく「Let It Be」を酷評したがる。確かに一般的な評価でも、このアルバムはぱっとしない。ただ、僕自身は結構好きなアルバムである。だって、「Across The Universe」入ってんだよ。「The Long and Winding road」も結構好きである。まあ、ほかのアルバムと比べるとどうかなとは思うが、決して質が低いと思ったことはない。
 今回の「ネイキッド」はどの雑誌を見てもすごく評判がいい。サウンドがソリッドになったとか、生身のビートルズサウンドに近いなど、賛辞が多い。しかし、これはオリジナルがあまり好きでない人の感想だと思う。とはいっても、今回の「ネイキッド」こそがオリジナルなのだろうが、僕的には明らかに良くなったとは思えなかった。「Get Back 」ははっきり言って前のヴァージョンの方が好きだ。.もっともっと聞き込めば違いや深さがわかるのかもしれないが、これがビートルズが本当に作りたかった「Get Back(Album)」だったのだろうか。そういった戸惑いを感じるアルバムである。企画盤として出してくれたら、もっと受け止められたのだと思う。ニューアルバムとしては、ちょっと重すぎる。

 おすすめ度★★★(03/12/11)


Beck
Sea Change
 あまり話題になっていないようですが、これは素晴らしいです。ソングライターとしてのベックの力量がいかんなく発揮された作品。Ashのようなキャッチーさはないが、心にジワリジワリとしみこむメロディーにやられてしまいます。「ミューティションズ」とよく比較されますが、今回は「ミューティションズ」の時よりグッとサウンドがシェイプされ、その分楽曲の構成やメロディーが非常に伝わりやすくなっています。この手のサウンドは、楽曲そのものがそのシンプルさに耐えうる力を持っていないとただつまらないだけなのですが、さすがはベック。楽曲の完成度は今までの作品の中でも一番ではないでしょうか。アコギ中心としながら、時に押し寄せてくるストリングスやノイズが非常にスリリングな魅力を醸し出していて、この辺はやはりプロデューサーのナイジェル・ゴドリッチの十八番と言ったところでしょうか。本当に仕事のできる男です。個人的にはベックのアルバムの中で一番好きです。
 おすすめ度★★★★★(02/10/7)
Guero
 Beckの新作はゴリゴリのギター、重たいビートで幕を開ける。聴けばすぐに分かるように、これはやはり「オデイレイ」的なものにBeckが再び取り組んだ作品であろう。Beck個人と言うよりは後ろに「with Dust Brothers」と加えるべきではないかと言うくらいヒップホップ、エレクトリックが上手く取り入れられ、それがBeckのメロディーとがっちり与し、2005年式のロックとしてしっかり鳴り響いている。また、1曲1曲が意外とコンパクトに出来ているが、サウンドの絡みが凄く濃厚なのでいいバランスになっていると思う。
 それにしても驚かされるのがBeckの音楽性の振幅の大きさである。これまではアルバムによってフォーク、ファンク、ヒップホップなどある程度「これ」という限定が出来たが、今作はどの要素も随所に取り込まれていて、分類する気にすらならない。人はあらゆる素材を手に入れることは出来るだろう。しかし、その素材を使っていかなる物を作るか、そこで大きな差が付く。つまりはそういうことで、ベックはその点で抜きんでた力を持っている。ギターの音一つでも、彼のセンスは抜群なのだ。そのセンスの積み重ねが、このとてつもないエネルギーを持った音楽へと昇華しているのだ。そして、素晴らしいメロディーを書ける。今作はその辺の魅力が十分に味わえるアルバムとなっている。
 ただ、ここまで褒めながらあえて注文を言わせて貰うと、質は高いけどどこか「予想の範疇」内で終わってしまったような気もする。贅沢なことかもしれないけど、「普通に素晴らしい」のはBeckには似合わない。Beckの過去のどの作品にも感じた「なんじゃこりゃ?!」というのが欲しいのです。

おすすめ度★★★
★(05/4/23)

Modern Guilt
 新作を出すごとに過剰なまでの期待をされるアーティストの一人がBeckだろう。それでも、デビューしてからすでに10年以上。相変わらずBeckの新作は、ロックの最前線であり、試金石である。
 Beckの作り出す作品は、音の紡ぎ方に特徴があって、過去の遺産的なものと新しいものをうまくミックスさせながら作ってきたようなところがあったと思う。そのセンスが爆発したのが「Odelay」。その後も、フォークやファンク、ヒップホップなど行き来しながらも、最終的には彼にしか作り出せない音へと昇華させていくのは実に見事で、表現者として理想的な道を歩んでいるなと思う。
 しかしながら、今作ではその繊細な作業が割とシンプルに行われたのではないかと思う。相変わらずいろいろなタイプの曲が存在するが、音数はBeckの作品の中では少ない方だと思う。はっきりとはわからないが、例えば今までだったら1曲仕上げるのに10のアイディアが必要だとしたら、今作では7,8のアイディアで作り上げているような印象を受ける。それゆえに、今作の楽曲からは生身のBeckがよく伝わってくる。聴いていると歌声や、歌詞の内容なんかがすごく気になる。これは初めてのことかもしれない。
 全10曲、34分というサイズはBeckにしては少々物足りない感じもするが、「物足りない」と思わせるところが逆にいい。何度もリピートし、聞きこんでしまう。
 
ただ、この作品もそうであるが、一つだけ全く変わらないこと。それは彼の書く柔らかなメロディー。圧倒的な才能がこの作品でも如何なく発揮されている。彼が今後どういう方向に進んでも、この部分は変わらないと思う。

おすすめ度★★★★☆(08/20/08)

Orphans
 


Belle&Sebastian
Dear Catastrophe Waitress
 トレバー・ホーン・プロデュースのベルセバ待望の新作。前作「私の中の悪魔」あたりから、よりメロディーのポップさを素直に出していくようになってきたが、今作はさらにポップさに磨きがかかっている。あまりの聴きやすさに思わず面食らってしまった。ポップ・アルバムとしては完璧に近い仕上がりであるが、これがベルセバ本来の魅力かと言えば少し違うような気もする。ベルセバを聴くときは甘い毒を喉元に流し込まれているような感覚があったが、今回の作品はなにか爽やかにサイダーを飲んでいるような感じなのだ。訳詞を読むと、以前のような毒々しさも残っているが、ベルセバファンにとっては少し物足りないのではないかと思う。
 そうはいってもやはりこのアルバムはポップという意味で非常に魅力的である。時々奇天烈なサウンドアイディアがでてくるのも面白い。最高傑作とは言えないが、ベルセバの新たな魅力を引き出した作品であるといえるだろう。
 おすすめ度★★★★
(03/10/30)

The Life Pursuit
またアルバムタイトルの話であるが、何かベルセバらしくない。あまりにもストレートで驚いた。ひねり具合の絶妙さがベルセバの魅力だったりするではないかと思うのだけど。まぁ、それは良いでしょう。
 前作がトレヴァー・ホーンということで、これはコーヒーに塩辛くらいミスマッチなのではないかと思ったけれど、双方が自分たちの仕事をしっかりした結果意外と面白い方向へ発展した。そこが賛否両論だったりしたわけだが、スチュワートにはこれくらいの冒険をして、リセットするくらいの方がクリエイティヴな面でも良いのではないかと僕は思った。
 そして、今作では新展開のベルセバがお目見えするのではと思っていたのだが、そうではなかったようだ。僕は大抵において「悪しきファン」というやつで、いわゆる初期ものを寵愛する傾向にある。ベルセバなんかも割とそうで前作「ヤァ カタストロフィ ウェイトレス」よりも「If You're Feeling Sinister」の方が圧倒的に好きだったりする。なので、今作の開放感あふれるバンドサウンドは最初はやや違和感を感じた。
 しかし、その違和感が無くなるのにあまり時間はかからなかった。かつてのベルセバがどうとか考える余地がないくらいにこのアルバムは心地よい。かつてのベルセバにない独特の心地よさがこのアルバムにはある。完璧なポップ・アルバムだろう。どの曲もメロディーが素晴らしいし、1曲1曲の演奏が適度にタイトなところもいい。何回でも聞きたくなるような構成になっているのだ。これだけ無駄や遊びが排除されているベルセバは初めてだろう。しかし、間違いなくこれはこれらの作品の中で一番幅広く支持されるアルバムだと思う。今後「ロック・クラシック」となるだけのクオリティーは間違いなくあると思う。
 

おすすめ度★★
★★☆(06/2/5)
The BBC Sessions

 Belle&Sebastianが1996〜2001までにBBCのセッションで残した音源が今回リリースされた。2枚組であるが2枚目は2001年ベルファストで行われたライブ。
 前作「The Life Persuit」は、ベルセバ史上最も開かれたアルバムとなったが、このセッション集は 時期的には「Fold Your Hands Child, You Walk Like a Peasant 」が出た頃あたりまでなので、今のベルセバとはまた違う趣を感じさせるセッション集となっている。
 「I Could Be Dreaming」や「The State I am In」といった代表曲もあれば、隠れた名曲的なものもある。「Tigermilk」「天使のため息」「The Boy With Arab Strap」「わたしの中の悪魔」という5枚のアルバムを出した頃とかぶるわけだが、アルバムごとに見るとベルセバが音楽的志向をマイナーチェンジしながら成長していった姿が浮かび上がってくる。しかし、このセッション集のように曲ごとでまとめてみるとクオリティーにバラツキがないので、一つのアルバムのように聴けてしまう。
 つまりは、このセッション集を通して変化しているように見えるベルセバサウンドも、根幹となっている部分は全くぶれていないんだなということがわかる。スチュワート・マードックの瞳はずっと同じものを見つめているというか、見えるものが変わっていっても、描き出そうとしているものは変わらないのだろう。
 もちろん、音楽的クオリティーは申し分ない。実にいい曲を書くし、余計なものを入れないシンプルな志向は自分たちの作る音楽に相当自信があるのだろうと思う。
 2枚目のライブ盤、これもまた素晴らしい。3曲のカバー曲があるのだが、まず選曲はかなりベタ。いきなりHere Comes the Sunって、なんかちょっと洋楽かじっている日本人でもやりそうな展開。しかし、これがなんともシンプルで美しい。原曲となんら変わらないアレンジだけど、いい。ほかのカバー曲は、The Velvet Undergroundの「I'm Waiting For The Man」、Thin Lizzyの「Boys Are Back In Town」。これまたよくカバーされる曲だが、こちらもベルセバなりに原曲に近づけようと演奏している。そして、これまたいい味を出している。
 もちろん「Me And The Major」「The Wrong Girl」などの代表曲も。1曲1曲終わるごとの観客の熱狂がどこか合わなくておもしろいのだが、その辺のぎこちなさが感じられるのもライブ盤の魅力なのかもしれない。

 おすすめ度★★★★(19/11/08)

The State I Am In

Like Dylan in the Movies


Black Kids
Partie Traumatic

 今年も夏が終わってしまった。

 夏の終わりを感じるのは人それぞれに違いがあるだろうが、僕は「ロックフェスが終わる」と同時に、夏の終わりを感じる。サマソニが終わって、帰りの飛行機の中で窓から景色を眺めながらそう思うのだ(実際はライジングサンがその後にあるのだが)。

 ロックフェスというのは、自分のような田舎ものにとっては「奇跡」に近い。途方もないというか、北海道にはまず来ることのないアーティストをたくさん間近に見られるなんてのは、最近でこそ受け入れられるようになったものの、かつてはあり得ないことだった。

 ロックフェスの味を知ってしまった今、自分にとっては「あり得ないもの」から「なくてはならないもの」へとなった。人生を一瞬彩ってくれる「祭り」、一言で言うならそういうことになる。

 もう結構話題になっている、Black Kidsの1st。すっかり売れっ子になったバーナード・バトラーがプロデュース。

 基本はわかりやすいメロディーにシンセが絡むダンサブルなギターポップ。当然こういうタイプのバンドの生命線はメロディーの質であるが、彼らの場合ここは見事にクリアしている。実にハイクオリティなメロディーが並んでいる。いわゆるパーティー・チューンの連発であるが、聴いていてすごく楽しくなるわけではない。むしろちょっとした寂寥感さえ覚えてしまう。なぜならば、Black Kidsの楽曲群が夏フェスを楽しむ自分の心情とリンクしているような気がしてならないからだ。

 彼らの歌からは、人生のささやかな「祭り」を全力で楽しもうとする気概、そして終末へと向かうことに対する切実な思いが伝わってくる。彼ら自身も今自分たちに訪れている「祭り」を全力で楽しんでいる。そしてもちろん、必ず終わりがくることも知っている。それでも、つかの間の夢に身を任せてみよう。特に娯楽のないところに育った人間にとっては、すごく共感できる思想なのだ。

 彼ら自身にそういう体験があるのかどうかは知らない。が、それは自分にとってはどうでもいいことで、また来るべき新たな「祭り」に向けて、Black kidsを聴きながら思いを馳せていくことになるんだろうな。いや、それでいいと思う。

 おすすめ度★★★★☆(09/19/08)
I'm Not Gonna Teach Your Boyfriend


Hurricane Jane


bleu
redhead
ボストン出身のシンガーソングライターであるブルウのデビューアルバム。ポップを基本線としながらも曲調は実に幅広く、ソングライティングの才能を感じさせるのには充分だ。元気の良いバブルガム・ポップから、大陸的なメロディーのナンバーまであるが、不思議な統一感がある。今回は、元ジェリーフィッシュのアンディー・スターマーを担ぎ出してのレコーディングだったそうだ。その目の付け所から、大体音も想像できると思う。前半にどキャッチーなナンバーを配しているため、後半ちょっとダレ気味になるところもあるが、この元気の良さと、ソングライティングの才能は作品の中で大いに光っているところである。
 おすすめ度★★★☆(03/9/13)
 


Bloc Party
Silent Alarm
 まず1曲目「Like Eating Grass」のイントロを聴いて欲しい。ここでゾクゾクわき上がるカタルシスを感じる人は、終始このアルバムにやられることになる。逆に何も感じない人はそこで聞くのを止めた方がいいかもしれない。
 Bloc Partyのファースト・アルバムはここのところのUK新人の中でも相当にインパクトのあるものとなった。身も蓋もない言い方をしてしまえば、ポストパンク/ニュー・ウェーヴの影響の色濃いサウンドであるが、攻撃的なカッティング、淡々としかし激しいビートを刻むドラム、次々と表情を変えていくヴォーカル、そのどれもが凄く新鮮だ。明らかにルーツが分かるのに新鮮、これはどういうことなのだろう。
 それは、彼らの音楽がこの時代の「速度」に呼応しているからなのだと思う。単なる焼き直しではなくて、彼らはポストパンク/ニュー・ウェーヴ以降のシーンが獲得したものを自分たちなりに消化している。それは「ビートの進化」。僕は実は初めて彼らの音を聞いたときにまず浮かんだのはThe Stone Rosesであった。あのレニの超絶グルーヴに近いものを感じたのである。音楽性は違うが、ビートが創り出すグルーヴの重要性を同じくらい感じているのだと思う。Bloc Partyも縦横無尽なドラミングが印象的だ。テクノの影響も感じられる。ギターの攻撃性と相まって、カミソリのような切れ味を持ったサウンドに仕上がっている。メロディーも乾いた質感を持ったものが多い。もちろんその方がサウンドとの相性がいい。願わくばアルバムのなかでもう少し緩急をつけて欲しかったが、それは次回に。
 コールドプレイ・フォロワー、最近ではフランツ・フォロワーが徐々に出てきているが、ひょっとするとこの後Bloc Partyフォロワーがたくさん出てくるかもしれない。それくらい影響を与えると思われる高い質とインパクトを持った作品だ。まだ早いけど、僕なんかは次のアルバムが心配になってしまう。願わくばこの作品を超えて欲しいけど。

おすすめ度★★★
★(05/3/7)
Intimacy

 Bloc Partyの3rd。ほとんどプロモーションされていない頃からネットで配信されていたので、ファンにとっては今更感があるかもしれないが、これはなかなか気合いの入った作品だと思う。
 前作「A Weekend In The City」は割と計算しつつも、自分たちをよい方向に追い込みながらあらたな側面を披露した力作であった。ただ、その計算された部分が過剰なインテリジェンスとも感じられ、逆に聴き手によけいなことを考えさせてしまうようなところもあった。
 今作は、そういった部分からの脱却を図ろうというねらいがあったのかは知らないが、とにかく何も考えなくても聴ける。というのは、音からあふれるエネルギーが強烈で、よけいな思考の余地を与えないのだ。肉体的であり官能的。とにかくプリミティブな魅力がこのアルバムにはある。デジタル、ダンサブル、そしてエレクトリックの要素が未整理のままぶち込まれていることで、先の読めないスリリングなところもいい。
 まとまりはないし、決して完璧な作品ではない。アイディアが先行してしまって、グルーヴにぎこちなさを感じる曲もある。それでも、「表現衝動だけで1枚作品を作ってしまった」というそんな雰囲気を漂わせているのはさすが。とてもロックだ。
 Bloc Partyがポストパンク・ニューウェーヴという範疇を軽々超えて、ロックの本質に迫ることのできるバンドだということをこのアルバムは証明している。

 おすすめ度★★★★(05/11/08)
個人的に一番好きなのが

Talons

Mercury


Blur
Think Tank
 「ごめんよ・・・デーモン」とまず言いたい。新作に対しては当初、あまり期待していなかった。というのもデーモンがきっとゴリラズや最近のマリへのアプローチをかなりブラーに持ち込んできていて、ブラーの持つバンドのグルーヴがきっと損なわれていると思っていたし、グレアム・コクソンの脱退がそれに拍車をかけていると勝手に想像していたからだ。ゴリラズもあんまり好きではなかったし、ワールドミュージックというものが体質に合わない僕としては、きっと「デーモンが一人ごちた作品を作るのだろう」と大いに不安を感じていたのだ。
 しかしながら、蓋を開けると今作は本当に素晴らしい作品となっている。ゴリラズの成果もマリ・ミュージックのテイストも見事に持ち込まれているし、ブラーというバンドの「ロックバンド的」なグルーヴは、あの「ソング2」系といわれているナンバー「Crazy Beat」においてでさえ全く失われている(僕はあのナンバーが「昔のブラーらしい」と呼ばれるのが全くわからない)。
 
不安がすべて的中しているのになぜ素晴らしいのか。それは、デビュー時から「パーク・ライフ」まで見られた、音楽に対するピュアネスを取り戻したからだと思う。喧噪やマスから自分たちを解き放ったところでこの音は鳴っている。「パーク・ライフ」以降の騒動から、迷走とも思える場面がいくつもありながら彼らは作品をドロップしてきたが、その迷走ぶりが作品にも現れていたように思う。しかし今作は、自分たちが知っているブラーからはほど遠いが、彼らは確実に新たな気持ちで音楽に向かっている。だから、このアルバムが「問題作」「冒険作」だとは僕は思わない。ブラーが新たな出発点を見つけただけなのだ。ミドルテンポの曲が多く、華美さを押さえシンプルながら味わいの深いビートを基調としたサウンド。聴けば聴くほど発見があるので、長くつきあって行けそうなアルバムである。
 おすすめ度★★★★(03/5/24)

Brian Wilson
Live At The Roxy Theatre
 注文はいくらでもある。
 @ソロアルバムからの曲が2曲しかない。
  88年のファーストソロ「Brian Wilson」、それから10年後のセカンドの「Imagination」。この二つのアルバムが持つ意味は彼のキャリアの中でも大きい。それは何度も復帰不可能といわれながら、そのたびに奇跡的なカムバックを果たす過程を生々しく伝えているからだ。ファーストの「Love And Mercy」、セカンドの「Your Imagination」はため息が出るほど美しく、そしてスピリチュアルな曲であった。ブライアンが「もう終わってしまった」人間ではなく、未だに現役バリバリで、かつてあれだけ才能をすり減らすような行為をおこなっていたのにもかかわらず、グッド・メロディーを書ける人間であるということを証明していた。そのことは、僕のようなファンにとってはもう本当に嬉しいことなのだ。少々説教くさくなるが、「あきらめない限り、人は何かを成すことができる」ということを体現してくれたということだ。
 ということで、ブライアンが過去ではなく現代に生きるミュージシャンとしての気概をやはり見せてほしいと思ったのだ。

 Aキーが低すぎ
 復帰してからのブライアンは残念ながら歌が下手になった。自慢の美しいハイトーン・ボイスはすっかり影を潜めるようになった。特にがっかりしたのが「Wouldn't it Be Nice」。「Pet Sounds」の冒頭を飾るこのトラック。やはりオリジナルキーで聴かせてほしいと思う。ファンとしては。「Caroline No」も。

 Bその「Caroline No」を歌う前に「ガハハハ」と笑うのは止めてほしい。
 例えていうならば、これはトム・ヨークが「ヒャハハハ」と笑い、鼻くそをほじりながら「The Tourlist」を歌うようなものだ。そういう曲じゃないでしょ。

 C「Be My Baby」(ロネッツのカバー)と「Don't Wolly Baby」を歌ってしまうのはどうか?
 思いっきり「パクりました」とネタばらししているようなもの。激似。

 まだまだあるが、このくらいに。先日は「Pet sounds」を完璧に再現するツアーを日本で行ったばかり。アルバムは500人しかは入れない小さなライブハウスでのショーを収録したものである。しかしながらその客のなかにはそうそうたるメンツがそろっている。R.E.M.のピーター・バック(彼らの作品には、ビーチボーイズの影響を受けたものが意外と多い。特にピーターとマイク・ミルズはブライアンの熱狂的ファン)や、パティ・スミスなどもいる。ジョン・ボン・ジョヴイもいるけど。選曲はほぼベスト・ヒットといった感じで、盛り上がることは盛り上がる。さっきにもあげたように、彼は未だ現役で活躍することのできるアーティストであるのだから、物足りない部分もあるのだが。それでも、出ない高音を振り絞るように歌う「God Only knows」や「Good Vibrations」には感動を覚えるし、カバー曲の「Brian Wilson」(という曲。初めて聴いたときはちょっとさむかった)から「Till I Die 」へとなだれ込んでいく展開には涙が出そうになった。
 つまりはなんのかんの言っても素晴らしいのだ。ブライアンについては冷静に批評できない。神様だとか伝説だとかたやすく使われてしまう言葉ではないと僕は認識しているのだが、それらの言葉を使うことが許される本当に数少ない存在なのだ。多くのミュージシャンや評論家が言うように、ロックに哲学的で難解な詩が使われるようになったのも、ポップソングのタイトルに、初めて「God (神)」という言葉を使ったのも、「コンセプトアルバム」という新しい概念を提示し、後にビートルズが「サージェントペッパーズ」を作るきっかけを与えたのも全て彼の功績なのだ。そして、今でも美しいポップソングを書いている。一度は人間であることを止めた人が、である。
それだけで素晴らしいことであるし、そんなブライアンのライブアルバムはやはり素晴らしいのだ。
 (02/3/25)


Pet Sounds Live
 全米を皮切りに行われた、ペットサウンズ再現ツアーであるが、これはロンドンで行われた公演を収録。話によると東京公演の方が出来が良かったと言うことだが、以前にも書いたとおり当時からビーチボーイズを正当に評価していた国へのリスペクトということだろう。このライブを見に来たメンツもすごい。まあ、エリック・クラプトンやロジャー・ダルトリーはわかる。エルビス・コステロ、レイ・デイヴイスも。しかしこれだけにはとどまらない。リチャード・アシュクロフト(そういえば最近ブライアンとコラボレートしたという噂が)、マニックスのジェームズ、ケミブラ、TFC、スーファリのグラッフ、リチャード・ジェームス、ポール・ウェラー、ショーン・オヘイガン、意外なところではケビン・シールズにボビー・ギレスピーのプライマル組、スーパーグラスなど。やっぱりね、わかっているんだな。
 気になるのはどれだけ再現されているかということ。キーが全体的に低いのはしょうがないところであるが、名うてのミュージシャンをバックに従えているだけ演奏もハーモニーも素晴らしい。特に良かったなと思うナンバーは「Don't Talk」。ため息が出そうな美しさだ。しかしながら、ブライアンはまた新作を作るのだろうか?昔の作品だけでもこれだけ素晴らしいライブができると、そっちの方へ興味が向かないのでは・・・少し心配である。
 おすすめ度★★★★(petsoundsを聴いたことがある人に〜02/8/31)
   

SMiLE
 ついに出てしまったとでも言うべきか、あり得ない話が実現してしまったとでも言おうか。ここ最近のBrian周辺は実に充実したメンバーを抱えていて、Petsoundsの再現ライヴなど、これまでアンタッチャブルとされてきた企画をやれるだけの環境が整っている。それでも、この最大のアンタッチャブルには手をつけないだろうと思っていたが、ついに。
 Brianが、現在のバンドメンバーの力を借りて、「SMiLE」を完成させた。37年の月日がかかった。はっきり言おう。これはとんでもない作品である。とんでもなく美しくて、とんでもなく壊れていて、とんでもなく音楽の強さを感じるアルバムである。なかなか上手く説明できないくらい素晴らしいものである。
 スタートしてから37年たったのが信じられないくらい新鮮な音である。僕も何曲か音源を聞いたことはあるが、当時のものと特に顕著にアレンジが違うものはなかった。つまり、当時のインスピレーションをキープしながら、今ブライアンが感じるものを肉付けしていったような感がある。だから、このアルバムは。1967年的でもあり、2004年的でもある。「英雄と悪漢」も当時のものと基本線は特に変わらないのに、新曲のような新鮮さがある。新しいバンドのメンバーが新たに活力を吹き込んだような、そんな印象を受ける。メンバー自身は、この伝説に関わるのに躊躇しなかったのだろうか。Beach Boysのファンは誰しも憧れるアルバムである。このアルバムを聴くと、確かに「Smily smile」は残骸だったのだなと、そう感じる。「Heroes And Villains」「Surf's Up」「Wonderful」「Good Vibration」といった歴史的名曲群が詰まったこのアルバム。まさにサプライズ・リリースだ。
 
 おすすめ度★★★★★(04/10/27)



That Lucky Old Sun
 Brian Wilson、4年ぶりのニューアルバム。その間に「SMiLE」を完成させ、実質は精力的に活動を行っていたわけだが、こうやってオリジナル曲中心のアルバムはずいぶん久しぶりな感がある。

 もうすっかり御大として扱われているところもあるだろうが、そんなよけいな気遣いを吹き飛ばしてしまうくらい今作は素晴らしい出来である。若い人にはアメリカン・ポップスの伝統を踏襲した、保守的な作品に思われるかもしれない。しかし、音符が五線譜の上を飛び跳ねているというか、とにかく音楽の本来持っている楽しさや美しさみたいなものが凝縮されている。それを一度は廃人になりかけた人間が60をとうに超えてから生み出したものなのだ。

 制作においては、バンドのメンバーであるスコット・ベネットと多くの曲を共作している。また今回はあのヴァン・ダイク・パークスが自ら書き下ろした語りで参加。スマイルやサーフズ・アップの頃のスピリチュアルなメッセージを届けている。

 今回、ロッキン・オンのインタビューで今作に収められている「永遠のサーファー・ガール」は、ロネッツの「Be My Baby」へのオマージュだということが明かされた。実際問題、BrianはほかにもBe My Babyを意識した曲を作っている。有名なところでは、「Don't Worry Baby」だろう。66歳になっても未だに「Be My Baby」を超えようとしていること、オマージュと言うよりは執念のようなものさえ感じる。個人的には、フィル・スペクターをもうすでに超えていると思うのだが。しかしながら、その気持ちこそが長年にわたってBrianのモチベーションとなっていることは間違いないだろう。そういう意味では、音楽の神様にはBrianの耳元で「いい線行ってるけどね・・・」とつぶやき続けてもらいたい。

 おすすめ度★★★★(10/05/08)

That Lucky Old Sun Trailer


Bright Eyes
I'm Wide Awake It's Morning
  2枚同時に発売されたアコースティックな方が本作品。1曲1曲紡がれていく物語は、カントリー的な曲調とは裏腹にとても重い。ただこの手のものがしばし陥りがちな重すぎて一枚聴き通すのが困難という欠点はこのアルバムにはない。それはまず、メロディーが素晴らしいことが大きな理由だと思う。シンプルながら本当に良い曲を書く。アメリカの伝統的なスタイルを踏襲しているため、大きく外すことはないという安定感もあるが、コナー・オバーストのメロディーは聴き手の心を鷲づかみにするのではなく、優しく包み込むような、そんな良さがある。これは「癒し」と言うことではなくて、コナーのリスナーとの独特な距離感がそう感じさせているのだと思う。強引に迫っていくのではなく、お互いの距離をお互いの「想像力」で埋めていこうという、そういったアプローチではないだろうか。
 穏やかな流れから時々一気に沸点へと達する怒り、このアルバムの聴き所はここにあるような気がする。このアルバムを聴くときには真剣に耳を傾けて欲しい。そうするとこの作品に内包されている「怒り」というものがよく伝わってくる。Neil YoungやBruce Springsteenとはまた違うが、「世界」「アメリカ」に対する怒りを彼なりのやり方で表現しようとしている。それゆえに英語が苦手な人は日本盤をおすすめします。ボーナスCDもついていて、これまたたまらなくいいです。シンガー・ソングライター的なものが好きな人は必聴です。「
 
おすすめ度★★★★
(05/2/28)

British Sea Power
The Decline Of British Sea Power
 バンド名はあまりいかしていないが、ブライトン出身のバンド。雑誌等を見ても「ジョイ・ディヴィジョン」「スミス」あたりがポンポン出てくるので、かなり高い期待を持って聞いたが最初は、どパンクにしか聞こえなくて戸惑った(いや、悪くはないんだけど)。しかし、4曲目「Something Wicked」あたりから、パワーポップの要素が、7曲目「The Lonely」から、UK特有のエモーショナルなギターロックが、この辺はすごくツボをついてきてかなり好きな感じである。終盤にかけては、いよいよパンクの要素はなくなり、メランコリックなメロディーの曲が並ぶ。まるで、トイ・ドールズが最後はフランク&ウォルターズになってしまうような感じだ。
 ここまで来ると、序盤のパンキッシュさはいったい何なんだろうと思えてくるが、思ったよりも全体を通した感じは違和感がない。が、できればもう少し構成を考えて欲しかったなと思う。メロディーの良い曲が多いだけに、構成だけ気をつければもう完璧だったと思う。しかし、まぁこういったぶち切れた所を併せ持つことこそがロックだったりするわけだけど。
 おすすめ度★★★★(03/10/25)

Open Season
 これはいいですね。まず何がいいって「Open Season」というアルバムタイトル。春にぴったりじゃないですか。そして不思議な生命力を感じるタイトルでもあります。でも、このことが実は凄く重要なキーワードになっているとも僕は思います。というのは、今回のアルバム全体にすごく有機的な流れを感じるのです。ステージ上に緑を飾る彼ら。彼らは鳥や草・木・花の一つ一つのエネルギーのような物を自然に感じ取り、表現のパワーに昇華させているのだと思います。そして、今回のアルバムはその点が前作よりも色濃く表れているように感じられます。だから、サイケデリックとオーガニックの不思議な同居とでも言いましょうか。詩はもうどうしようもなく八方ふさがりだったり、やるせなかったり、壊れたりしているんですが、サウンドと融合すると不思議な味わいを見せます。BSPサウンドとしか言いようのない存在感のある音です。
 全体の流れがゆったりとしていてほぼ全編ミドルテンポの曲が占めていますが、そこで浮き彫りになってきたのが、彼らのメロディメーカーぶり。まさに捨て曲無し。英国には素晴らしいメロディーを書くバンドはたくさんいる。しかし、彼らの素晴らしいところは自分たちの表現したい感情を、歌詞よりもメロディーの方が雄弁に語っているところ。そして、耳をするすると通っていかずに、胸を掻きむしられるような思いになる。1stではかいま見ることが出来なかった部分であろう。前作のパンキッシュさは皆無になったが、ここをどうとらえるかで評価が分かれてくるだろう。僕的にはああいうBSPも好きだが、今回は必然的な変化だと考える。つまりこれからのバンドの歩みとして通るべき道だったように思うのだ。少し強引な例えであるが、サザンオールスターズが「コミックバンド」と言われていた頃に周りの反対を押し切って「いとしのエリー」をリリースした。それがバンドにとってごく自然なことであったからだ。バンドのイメージと闘うのではなく、自分たちにとって今必然なことをやる。そういうスタンスがBSPにもあって、このアルバムはまさにそれを体現した傑作であると思う。

おすすめ度★★★
★☆(05/4/20)


Broken Social Scene
Broken Social Scene
 現在のカナダ・オルタナ・ブームを牽引しているバンドの一つであるBroken Social Scene。このバンドの素晴らしいところはやはり、自分たちが「これだ!」と思ったものを見事に吸収し、表現できる雑食性にあると思う。その幅広さはArcade Fireにも通じるところだが、BSSの場合は何かテーマを設定しフォルムを構築していくというのではなく、もっとフリーキーな部分に重点を置いているように思う。Arcade Fireばりの壮大なロック・ナンバーがあれば、ラップをフィーチャーしたダンスナンバーもあるのだが、そのどれもが違和感なく共存している。ただ、メロディーはかなりポップなんだけど、耳はメロディーよりも目まぐるしく変化する展開の方にいってしまう。そこが評価が分かれるところかもしれない。が、個人的にはこれだけいいメロディーなのだから、むしろそこに焦点を当てるのではなく、このメロディーを「こういう形でやってみました」というアイディアで勝負する方がずっと面白いと思う。そういう意味では、まさにこの作品はストライク。サウンドのフォルムを重視したと思われる今回のプロデュースはこの作品で見事に結実していると思う。そして、1曲1曲から伝わってくるエネルギーも半端ではない。実験的にやっているようで、凄く計算されているからこそ、音の振動がダイレクトに伝わってくる。カナダ、すごいなー。傑作。
 

おすすめ度★★
★★☆(06/1/6)

Bruce Springsteen
Working On A Dream

Surf’s Up ロックと政治が結びつくことにどうしようもなく違和感を感じる。アメリカだけでなく世界中のアーティストがオバマを支持しようとも、僕は言いようのない居心地の悪さを感じる。オバマとがっちり握手をしているブルースの姿を見たときもそうだった。
 なのに、僕はこのアルバムを聴いてすごく感動してしまった。感動と言うよりはドキドキしてしまった。ロックを聴いてドキドキしたのは久しぶりのことかもしれない。ワクワクすることはよくある。でも、ドキドキは本当に久しぶりだと思う。政治的背景や思想からは切り離せないのだろうが、僕自身は全くそれを抜きにしてこのアルバムを楽しんでいる。
 昔Born To Runが好きで、小学生の頃友達にレコードをテープに録音してもらって、本当によく聴いた。何度も何度も聴いた。Thunder RoadからJungle Landまで全く無駄のない、まさに奇跡のようなアルバムだと思っていた。素晴らしいロックンロールを聴くと、胸がドキドキした。Born To Runはそんな1枚なのである。

 30年以上前にリリースされたそのBorn To Runとこのアルバムを比べるわけではないのだが、あの頃と同じようなドキドキを今作では感じることができる。ポップでメロディアスでわかりやすいロックン・ロールアルバム。風のような疾走感にあふれ、抜けの良い楽曲が並ぶ。
 前作Magicもブルース本来のメロディーセンスが解放されたアルバムであったが、今作では更に解放され、様々なタイプの楽曲に挑戦している。盟友E Street Bandとの抜群のコンビネーション、ストリングスやオルガンを上手く使いながら、ポップでドリーミーなテイストを演出するなど冒険的な要素もある。でも、ボス・クラシックとも言うべきロックンロールナンバーの切れの良さが実に素晴らしい。
 また、メッセージもこれほどわかりやすい言葉でメッセージを伝えようとするブルースも久しいのではないだろうか。Working On A Dreamでは「夢を追い続けている」「いつの日か 夢を叶えてくれるはず」と何度も歌われる。かなり恥ずかしく思われるかもしれない。しかし、40年以上ステージに立ち、その瞬間を「奇跡」と称するブルースは誰がなんと言おうとも本気でそう思っているのだろう。そういう強さが、メロディーからサウンドからビシバシ伝わってくるのだ。言葉を支える強靱な音と歌がそこにはある。
 思えばいつからかブルースは僕から遠いところへ行ってしまった。小難しいところはあったが、終始小難しい顔をしてアメリカの苦悩を歌う彼に一日本人が共感するのはとても難しいことだと思う。そんな年月が続いたが、ブルースは戻ってきた。50代後半になってもこれだけポジティブで力強いメロディーが湧き上がってくるとは、正直思っていなかった。これもまた、「奇跡」の瞬間なのかもしれない。

 おすすめ度★★★★★(08/02/09)







Bump Of Chicken
ハルジオン
 バンプ待望の新曲。擦り切れんばかりに聴いた(とはいってもCDだから擦り切れないんだけど)「FLAME VEIN」「THE LIVING DEAD」の両アルバム、「ダイヤモンド」、「天体観測」といった傑作シングルたち。生きていくことを問うていく言葉、そしてその言葉を伝えるためのリズムとサウンド、この両面が奇跡的なバランスを保ち続けている数少ないバンドであり、数少ない中でも希有な存在であるバンプ。藤原基央は雑誌のインタービューで「知識、愛情、勇気、夢、そういうもの全部余計ですよ。結局のところ、どう切っても最高であり最強な歌を鳴らせるんだって事実と衝動だけが今は大切です」というようなことを言っていた。「ハルジオン」はまさにそのことを体現した歌だ。世の中では「夢を持て」「希望に向かって走れ」などといった薄っぺらい言葉が今でも正義面をしてまかり通っているのだが、僕らはその言葉にずっと違和感を抱えながら生きていたはずだ(と思う)。上手く言葉にできないのだけれど、結局のところただ自分の信じる絶対的なものに向かって進んでいくしかないのだ。当然その道はスマートなものにはならないだろうし、転んだり迷ったり、血を流すこともある。それでも突き進まずに入られない、そんな衝動こそを大切にしていくべきなのではないかと思う。僕がバンプの作品から強く感じるのは、そういうことである。過去でも未来でもなく「イマ」を生きるために「枯れても 枯れない花」を咲かせる、混乱も矛盾もすべて抱えたまま走っていく。「ハルジオン」はそんな彼らの軌跡を描いた曲であると思う。迷わず聴け。
 おすすめ度★★★★★(01/10/17)


Jupiter
 ロッキン・オン・ジャパン3月号の表紙は彼ら。四人の集合写真であるが、ここから匂い立つものはいったい何であろうか。メンバー全員21,2とうところだと記憶しているが、単なるバンドのメンバーという気がしない。これはもう「戦友」と言っていいのではないだろうか。それくらい強い関係で結ばれているのだと言うことが、この写真からは感じ取れる。
 ようやく出た彼らの3rd。1st「Flame Vein」、2nd「The Living Dead」ともに、破格の出来であった。これほどすごいなと思ったのは、古い話になるがフリッパーズ・ギターの「海へ行くつもりじゃなかった」「カメラ・トーク」とニューエスト・モデル「ソウル・サヴァイバー」「クロスブリード・パーク」以来である。(わかる人どれだけいるのだろうか)とにかくアルバムの密度が尋常じゃない。思わず「次は大丈夫かいな」と心配してしまうほどすさまじい出来であった。ゆえに今回の「Jupiter」もちょっとだけ不安があった。FMで何度か聴いた「メロディーフラッグ」はめちゃめちゃすごいと言うほどには感じなかったので正直やばいかなと思った。
 まず聴いて、サウンド面が大きく変わった。メジャー初アルバムということも関係あるのか、音が分厚くなった。ギターも以前の「攻撃的なんだけどちょっと細いかな」という感じがなくなり、非常に厚みを増している。リズム隊もがっちり、どっしりとしている。バックトラックだけ聴いたら、別のバンドのようである。そして、そこから繰り出されるメロディーはどうか?これも以前に比べると変化してきているように感じられる。彼らの特徴であったドラマチックなメロディー展開が若干抑えられているように感じられる。決して質が落ちたというわけではなく、言葉とサウンドに見合う野太さを持ったメロディーとなっている。1曲目「Stage of The Ground」などその最たる例と言っていいだろう。終わりのコーラスの力強さを聴けばわかるはずだ。そういった流れで聴いていくと、前述の「メロディーフラッグ」も実はとんでもない曲だったということがわかる。
「ここで今 君の手を 掴むためのメロディーフラッグ 遠い約束の歌 深く刺した旗」バンプの歌はまさにそんな「メロディーフラッグ」そのものであるような気がする。「どれだけ世界が変わっていっても、自分の立つ位置はここだ、いつだって胸を張れ、笑い飛ばしてやれ」本質を突いた藤原の言葉の数々が、自分にそういっているように思えてならない。
 僕が18だった頃、彼らはきっとまだ小学生のガキンチョだったはずだ。その彼らの紡ぐ歌に僕はことごとくやられてしまっている。それを時々悔しいと思うことがある。初めて「Lamp」を聴いたときからそれは変わらない。胃の痛みと闘いながらそんなことをぼんやりと考えている。
 おすすめ度★★★★★(02/2/26)

スノースマイル
 
久しぶりにドロップされたシングルは、至ってストレートなラブソング。藤原のロマンチシズムがいかんなく発揮された作品である。手触りとしては2ndの「リリィ」に近い感じではないだろうか。少し恥ずかしくなるような内容ではあるが、こういう曲をさらりとやれてしまうのが彼らの強みであろう。
 これまでのバンプの楽曲は非常に即効性の高いものばかりであったが、今作はじわじわとくる。カップリングの「ホリディ」も親しみやすいメロディーが光る佳作。
おすすめ度★★★★(03/1/04)

ロストマン・Sailing Day

 僕は「ワンピース」というマンガを読んだことも、アニメを見たこともない。見ようと思ったこともないし、まして見る必要があると思ったこともない。「Sailing Day」が「ワンピース」の主題歌になったという話もあまり重要に考えてはいなかったが、この詩の世界を読み解くためには重要なタームであるといえるだろう。もろタイアップを意識したと言うことだから、それはそれでいいのだが、ちょっとした疎外感も感じてしまった。
 「ロストマン」は長い月日を費やして制作された作品。しかし、来た道を振り返っているのでもなければ、未来を見据えているものでもない。「これが僕の望んだ世界だ そして今も歩き続ける 不器用な旅路の果てに 正しさを祈りながら」彼らは徹底的に「今」しか歌わない。希望もなければ、思い出もない。あるのは、現在の時の重さだけ。だから、彼らの紡ぎ出す世界はあまりにリアルなのだ。
 メロディーは彼らが得意とする、じわじわと高揚していくもので、「Jupiter」の頃に比べるとさらに進化を遂げたような印象だ。ただ、あまり目新しい部分を感じることができなかったのがやや残念である。自分自身をパクってしまったような感じがなければもっと感動的な曲になっていたはずだ。
 おすすめ度★★★★(03/4/1)

ユグドラシル
 Bump Of Chicken、明らかに一つハードルを越えた作品。「Flame Vein」「The Living Dead」の初期2作があまりにも痛烈で瑞々しくて、少年の残酷性を持ったアルバムであったために、前作「Jupiter」は僕の中でどこか焦点がぼけた作品としてうつっていた。「ダイヤモンド」「ハルジオン」など名曲があるものの、アルバムの各曲が織りなすストーリーが平坦であったり、無理があったためにメロディーも昇華しきれないところがあった。
 しかし、この新作は前作での煮えきらなかった部分を見事に解消した作品に仕上がっている。バンドとしてさらに完成された域に来ているのではないだろうか。「乗車券」「「レム」この2曲は詞としてはぎりぎりのところを描いていながら、サウンドは前者がたたみかけるようなナンバーで、後者は静寂の中でつま弾かれるナンバーだ。また「スノースマイル」「Sailing Day」でのど真ん中のポップ性もこのアルバムの中に無理なく溶け込んでいる。それまではあまりピックアップされなかったミディアム調のナンバーが多いのも特徴だ。多様な表現方法を身につけ、バンドとして一皮むけたように思う。そういう意味では「聞きやすく」仕上がっているが、詩の世界は相変わらずと言うよりは更に深く人間の生について語られている。今後は「旅」などのモチーフを使わなくても、十分に詞が書けると思う。それくらい今作では揺るぎないものを身につけたのではないだろうか。ロックが好きでもバンプが嫌いという人がいる。このバンドはブルーハーツのなり損ないでは決してない。バンプは「必ず夢は叶う」とは歌わない。「がんばれ」とも歌わない。生きる指針を大げさに宣言するのではなく、ただただ現実を目の前にして「さぁ、おまえならどうする?」と問い続けているのである。だから、バンプの歌は僕の物語でもあり、あなたの物語であるのだ。そこが32歳の男にとってもリアルに響く。嫌いな人にこそ聞いてほしいし、聞いて考えてもらいたいアルバムである。
 おすすめ度★★★★☆(04/9/29)



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