ロックと政治が結びつくことにどうしようもなく違和感を感じる。アメリカだけでなく世界中のアーティストがオバマを支持しようとも、僕は言いようのない居心地の悪さを感じる。オバマとがっちり握手をしているブルースの姿を見たときもそうだった。
なのに、僕はこのアルバムを聴いてすごく感動してしまった。感動と言うよりはドキドキしてしまった。ロックを聴いてドキドキしたのは久しぶりのことかもしれない。ワクワクすることはよくある。でも、ドキドキは本当に久しぶりだと思う。政治的背景や思想からは切り離せないのだろうが、僕自身は全くそれを抜きにしてこのアルバムを楽しんでいる。
昔Born To
Runが好きで、小学生の頃友達にレコードをテープに録音してもらって、本当によく聴いた。何度も何度も聴いた。Thunder
RoadからJungle
Landまで全く無駄のない、まさに奇跡のようなアルバムだと思っていた。素晴らしいロックンロールを聴くと、胸がドキドキした。Born To
Runはそんな1枚なのである。
30年以上前にリリースされたそのBorn To
Runとこのアルバムを比べるわけではないのだが、あの頃と同じようなドキドキを今作では感じることができる。ポップでメロディアスでわかりやすいロックン・ロールアルバム。風のような疾走感にあふれ、抜けの良い楽曲が並ぶ。
前作Magicもブルース本来のメロディーセンスが解放されたアルバムであったが、今作では更に解放され、様々なタイプの楽曲に挑戦している。盟友E
Street
Bandとの抜群のコンビネーション、ストリングスやオルガンを上手く使いながら、ポップでドリーミーなテイストを演出するなど冒険的な要素もある。でも、ボス・クラシックとも言うべきロックンロールナンバーの切れの良さが実に素晴らしい。
また、メッセージもこれほどわかりやすい言葉でメッセージを伝えようとするブルースも久しいのではないだろうか。Working On A
Dreamでは「夢を追い続けている」「いつの日か 夢を叶えてくれるはず」と何度も歌われる。かなり恥ずかしく思われるかもしれない。しかし、40年以上ステージに立ち、その瞬間を「奇跡」と称するブルースは誰がなんと言おうとも本気でそう思っているのだろう。そういう強さが、メロディーからサウンドからビシバシ伝わってくるのだ。言葉を支える強靱な音と歌がそこにはある。
思えばいつからかブルースは僕から遠いところへ行ってしまった。小難しいところはあったが、終始小難しい顔をしてアメリカの苦悩を歌う彼に一日本人が共感するのはとても難しいことだと思う。そんな年月が続いたが、ブルースは戻ってきた。50代後半になってもこれだけポジティブで力強いメロディーが湧き上がってくるとは、正直思っていなかった。これもまた、「奇跡」の瞬間なのかもしれない。
おすすめ度★★★★★(08/02/09)