クロコダイルズ、というとついついエコバニのデビューアルバムを想起するのだが、これはバンド名。2人組のユニットで今作が1stに当たる。
Jesus&Mary
ChainのAutomaticに近い、打ち込みっぽい無機質なリズムとノイジーなギター。そして甘美なメロディーと気だるいヴォーカル。とにもかくにも今こういう音作りをしているバンドは珍しくない。エレクトロ、ニューウェーブなど80テイストの強いサウンドが逆にもてはやされているが、どこかで時代性をその音に反映させないとリスナーにはそっぽを向かれると思う。
このバンドの特筆すべきところは、粗雑に見えながらも聴き手のあらゆる恣意を大きく超えてしまうメロディーのパワーを持っているところである。
リードトラックである、I Wanna
Killの切実さあふれるメロディーは、単なるシューゲイザー・フォロワーとして流すには惜しい、とても魅力的なナンバーである。
曲単位で見ると、意外とバラエティーに富んだ楽曲が並んでいる。例えばBeatlesっぽいものもあってHere Comes The
Skyの歪んだアルペジオが奏でるサイケデリアは、もろ後期Beatlesであるし、Flash Of
Lightはリボルバーのあの曲を彷彿とさせる。また、パンキッシュなRefuse AngelsはダークなヴォーカルがJoy
Divisionのようだ。
ただ、全体的に浮遊感のあるアレンジが施されているので、散漫な印象は受けない。むしろ、ある種の「不健康」的な雰囲気がこのアルバムをしっかりとまとめ上げているように見える。エコだ、ロハスだと見えない「健全」を振りかざす人たちがおかしなくらい力を持ち始めた世界において、この音は強い攻撃性を秘めた音だと思う。それはもちろん僕にとっては魅力的な音であり、時代性を強く反映させたものにほかならないのだ。
おすすめ度★★★★☆(28/05/09)
かねてから評判だったCajun Dance
Partyのファースト。初めて「amylase」を聴いたときのことを決して忘れはしない。疾走感のあるサウンドと、胸をわしづかみにするストリングスとメロディー。1回聴いただけで、口ずさめるようになり、虜になった。
ジャケットからしてかなりナルシストっぽいケビン・ジュニアー率いるChamber
Stringsの昨年のアルバム。美メロ度の高さではかなりのものである。M-4「Make It Through The
Summer」は大名曲。ジャケットで傘を持っているように、何か雨の日のサントラといった感じである。目新しさや、時代を反映する要素はないが、確かなソングライティング能力と自分の世界を持っていれば、人々を感動させる素晴らしい作品を作ることができる、ということの見本のようである。
シャーラタンズをデビュー当時から知っている人は、彼らがここまでの存在になると想像していただろうか?とはいっても、デビューの「The Only
One I
Know」はチャートの1位を獲得し、セールス的には昔から良かったのだが。しかし、彼らはデビュー当時「インスパイラル・ローゼス」などと呼ばれていた。今から10年以上前、マンチェスターを中心としたムーヴが形成されていた頃の代表格があのストーン・ローゼズとインスパイラル・カーペッツであった。ティムのヴォーカルのヘロヘロ具合が、イアンの真似、ハモンドオルガンを多用したサウンドが「インスパのパクリ」と揶揄されたのだ。
シャーラタンズとはもう長い付き合いになるけど、デビューしたばかりの頃はあまり好きではなかった。当時はローゼズとインスパイラル・カーペッツの亜流のように言われたりもしていたが、僕も結構同じような考えでいた。そんな彼らのことを夢中で聴くようになったのは「The
Charlatans」というアルバムが出てからだ。このアルバムで展開される濃密なグルーヴにすっかり飲まれてしまったからだ。それから過去の作品をすべて聴いた訳なのだが、彼らのグルーヴ感というのは「The
Charlatans」で開花したというわけではなく、デビューの頃から独特のものを持っていて、どんどん深化していたのだ。そして、「Tellin’ Stories」はもう僕にとって運命のアルバムと言ってもいい。まさに息をもつかせぬ展開。「One
To
Another」のかっこよさといい、もう非の付け所のないアルバムであった。その後も自分たちのグルーヴを黙々と追求し続けている彼らだが、グルーヴの質感が緊張感あふれるものから、幅広い音楽性へと変化しつつある。特に前作「Wonderland」では、ソウルやブラックミュージックの影響と思われる楽曲も登場している。僕としてはこの多様な音楽性というのがかえって馴染めずにいる。
「無料ダウンロード」という形でリリースされた、シャーラタンズの新作。今更説明のいらない、潮流の激しいUKロック界のサバイバーである彼ら。大傑作「Tellin'
Stories」以降は、新しい自分たちのグルーヴを追求しようと格闘を続けてきたが、もう一つ成功したとは言い難かった。前作「Simpatico」では、以前のような攻撃的なナンバーと、ダンサブルなナンバーが混在していたが、トータルで見ると若干散漫な印象はぬぐえず、昔からのファンとしては決して満足のできるものではなかった。一般的にもいわゆるピークを過ぎたバンドとして観られていたと思う。
Chemical Brothersも基本的には新作ごとに新境地を期待されるユニットであると思う。これまでの彼らは、その期待に恐ろしくパーフェクトに答えてきたと思う。実際どのアルバムも新鮮に感じられたし好きである。ただ、今作に関してはまた新境地は開いているのだが、なんとなく新鮮みに欠ける感が否めない。これまでよりもポップでダンサブルという前評判はその通りだと思う。ただ、普段そういう音楽を自分はあまり聴かないのでどう感じられるかなと思ったのだが、1曲目「Gavanize」、2曲目「The
Boxer」、3曲目「Believe」までの流れは本当に良くて、すごく格好良いなと思った。ただそこまで快感をもたらしていたスリル感はそこまでで、それ以降は見事に失速していく感じを受けた。終わり頃の「Marvo
Ging」あたりで若干盛り返す感じはあるが、耳をするすると抜けていく感じで決定的に物足りない。いろいろな試みをしているのは分かる。ただこれまでの彼らの実験性は、非常にロック的な土俵で行われていて、そこにリスナーとしてリンクすることが出来ていたのだが、今回は明らかに自分とはリンクしていない感じなのだ。だから、気に入る人は気に入るだろうし、質的には高い作品なのだろうと思う。ただ、いかんせん自分には相当ソフトに聞こえてしまう。実際はソフトでは無いのだろうけど、「The
Private Psychedelic Reel」や「Come With Us」で感じるカタルシスとは明らかな差を感じるのだ。ケミブラがこれをやる必要はなかったのではないかな?
コールドプレイとの出会いは忘れられない。一昨年のサマソニでなにげに彼らのステージを見た。その頃は名前だけは知っていたが、音は聞いたことがなかった。入ってすぐ「次は『Yellow』という曲をやるよ。イギリスじゃ結構有名なんだ」というMCとともに彼らはあの名曲を演奏した。夫婦共々彼らのサウンドにやられてしまった。今でこそなにか神経質な感じのする彼らだが、当時は結構気さくな感じで、出演が終わった後、メンバーが外でサインに応じていたのを覚えている。そして、次の日僕は伊丹空港行きのバスに乗り遅れそうになりながらも大阪のタワレコで「パラシューツ」を買った。妻に偉い怒られたが、コールドプレイとグランダディのCDを買ったよ、と説明するとすぐに顔がほころんだ。かくしてこれが我々の愛聴盤となり、日本を去った後イギリスで偉く人気があるということを知ったのであった。
1stから熱狂的に受け入れられたバンドはこれまでも数多く存在している。ただ、その期待を満たし続けてくれるバンドはそうそういない。個人的には「Parachute」は未だによく聴くのだが、Coldplayはその系譜には属さないバンドだと思っていた。というのは、今の時代においてこれまでのメロディーの水準を保つのは容易なことではないし、それを望むのは酷だろうと思っていたからだ。2ndは佳曲が多く、アレンジの面で幅をグッと広げたことでバンドのクリエイティヴ面のレベルの高さを感じさせてくれた。さて、3rdはどうなるのだろう。想像が付かないと同時に、ハードルをクリアできるのか、余計なお世話ながらかなり心配していた。
Coldplayの3年ぶりの新作。ブライアン・イーノをプロデューサーに迎えたことからもわかるように、明らかにこれまでのイメージを払拭し、新たな挑戦をしようというバンドの意気込みが伝わってくる。
実はこのバンド以前シングルを買って以来、かなり期待していた。ロックのダイナミズムとカタルシスを内包しているバンドである。そういった部分を売りにしているバンドも数多いるのだが、彼らがその中でも抜きんでた存在となっているのは、彼らが「メロディー」を持っているバンドであるからだ。力強さと繊細さ、アンビバレンツな魅力を持ったメロディーを書ける最近では珍しいバンドである。今作は、その彼らの魅力が「これでもか」と発揮されたアルバムである。
昨年度のデビューアルバムも素晴らしかったが、さらに進化したTCTCをここでは味わうことができる。ミディアムテンポの曲が多く、次第に広がっていくランドスケープのようなサウンドは、前作のいくつかにもあったが、今作ではさらにそのスケール感が増している。メロディーの素晴らしさはそのままながら、サウンドに深みを与えることに見事に成功した快作であるといえると思う。
よく「ヘンテコサウンド」というような形容をされるバンドですが、僕はあまりそう思いません。「へんてこ」でありながら良質のロックということでは、ザッパやキャプテン・ビーフハートのほうが際だっていると思います。ソングライティングの面ではかなり個性的な魅力を持ったバンドだと思います。特にメロディーは新しいスタンダードの形となりうる可能性を秘めているように思います。
実は今まであんまりThe Coralの事が好きではなかった。不思議なものだ。モダン・サイケを基調としながらも自らのルーツや親しんできた音楽要素を「これでもか」とぶち込むスタイルは新鮮だったし、曲もメロディーがしっかりしたものが多い。なのにイマイチ馴染めなかったのは、その「過剰性」が僕の手にはどうしても余ってしまうところにあったからだと思う。
今作が僕にとって初体験のバンドである。前作「When I was Born For The 7th
Time」がすごく評価が高かったので気にはなっていたが、結局買うことはなかった。ちらちらと聞いたことはあったが、あまり好きなタイプの音楽ではなかった。なんとなくいい感じのサウンドではあるのだろうけども、近頃の坂本龍一に感じるような、聴き手を無意識的に選んでしまっているアティチュードがコーナーショップを僕から遠ざけてしまっていた。当然本人たちにはそんな気持ちもないだろうと思うが、僕にとってはどこか門戸の狭いサウンドだった。
The Cure13作目のアルバム。