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The Fireman/The Flaming Lips/Fleet Foxes/Fleeting Joys/Fountains Of Wayne/Franz Ferdinand/The Fratellis

The Fireman
Electric Arguments

Surfs Up 最近はすっかり「サー・ポール」などと呼ばれるようになってしまったポール・マッカートニーと元Killing Jokeのユースのユニット、The Firemanの3rd。自分が彼らの音を聞くのは今作が初めて。1st,2ndはアンビエントな作品らしく、そういうのはポールが作っているとなるとかなりの勇気を要する。なので、聴いたことがない。今作を聴こうと思ったのは、ほとんどがヴォーカル入りだということ。ポールのソロだと言っても過言ではないという前評判につられてである。

 で、その前評判はほぼその通りだと言って過言ではない。確かに素晴らしい。

 1曲目、 Nothing Too Much Just Out of Sightからして度肝を抜かれる。いきなりブルージーにがなるポールがそこにいるのだ。ホワイトアルバムに収録されている「Helter Skelter」でのポールのシャウトはめちゃめちゃかっこいいが、66歳のシャウトもこれまたかっこいい。意外とも言えるヘヴィーなナンバーでアルバムは幕を開ける。

 3曲目Sing the Changes はシングル、高揚感あふれるポールお得意のギター・ロックであるがアルバムを通してみると意外と地味に見える。

 5曲目、Highwayでも再びブルージーなポールを味わえる。今までもきっとこういう感じの曲をたくさん出していると思われるが、実に新鮮に聞こえる。ポールが生き生きとするのはこういうブルージーなロックナンバーなんだということがわかる。声が衰えてきた、という意見もあるが、さしたる問題ではない。自分がやりたいと思ったものに臆せず挑戦する。若かろうが、名声を極めてきた大御所だろうが、そこが聴き手を感動させるところである。

 8曲目Dance 'Til We're High では久しぶりにポップの魔法を操るポールが見られる。今の季節に合いそうなスイートなポップシンフォニーだ。

 個人的には、ポール流スワンプ・ロックの6曲目Light from Your Lighthouse 、ラーガで歌詞が意味深な9曲目Lifelong Passion が地味ながら好きである。

 情報によると、ポールがその日に曲を書き、演奏してレコーディングしていくという形で制作が進められたらしい。そういう「勢いありき」なところがあるためなのか、曲のバラエティーが豊かすぎて正直アルバムのまとまりには欠けるかもしれない。しかし、このまとまりのなさがかえってアーティスト、ポール・マッカートニーの底なしのポテンシャルを証明することになったと思う。

 個人的には、前作のソロ「A Memory Almost Full」よりもずっと好き。かなりユースには失礼なまとめ方ですが、ポールの創作的「勢い」が感じられるアルバムです。

 おすすめ度★★★★(10/12/08)

Sing The Changes


The Flaming Lips
Yoshimi Battles The Pink Robbots
 「オーヨシミ、ゼターイマケナィ」で有名になってしまった、今作。前作「THE SOFT BULLETIN」は本当によく聞いた。私にとって、フレミング・リップスとは「銅鑼(ドラ)」である。あのでかい鐘のようなやつ。一昨年のサマソニでステージの真ん中に鎮座した銅鑼を打ち鳴らしながら「RACE FOR THE PRIZES」を歌うウェイン。本当にしびれた。夫婦共々やられた。最初は「なんじゃありゃあ?」と思っても、最後にはあの銅鑼に魅せられてしまったのだ。一見とんでもないようなボールでも、実はど真ん中のストライクであったりする。マウンド上ではなくて、外野席の一番上から、キャッチャーミットめがけてど真ん中の玉を放るような、そんな得体の知れないすごさが彼らの音楽にはあるような気がする。今回の作品にもそんな彼らの魅力がよく現れていると思う。時々だらだらとしてしまう感は否めないが、要所要所に名曲をちりばめ、しっかりとまとめている。前作のようなポジティヴィティーはないがメロウさは健在。
 おすすめ度★★★★(02/8/16)


Fleet Foxes
Fleet Foxes

 先日少し紹介した、シアトル出身のバンド。
 自らの音楽性を「バロック・ハーモニック・ポップ・ジャム」と称している。確かに単なるフォークではなく、即興的な展開を見せるような曲もあったりして、フリーキーなフォークという感じ。でも、やりっ放しな曲は全然なくて、しっかりと完結させている。
 そのせいだろうか、一番耳につくのは、伸びやかで美しいヴォーカル、アコギの流麗な響き。新しい要素はそんなにないかもしれないが、いい演奏といいメロディーがあればそれで十分。地味だけど、土台のしっかりした演奏、そしてカントリーやフォークの教科書にも載っていそうなオーソドックスなメロディーという、この2つの軸がぶれない限りは、良質な作品を生み続けるような気がする。 
そして、聴き手に対し若干醒めたような距離感の取り方は、ベルセバのよう。何度も聞くのがおすすめです。

おすすめ度★★★★(09/09/08)

Fleet Foxes - White Winter Hymnal


Fleeting Joys
Occult Radiance

Surf’s Up Fleeting Joysのセカンド。男女(夫婦)のユニットで、サイケデリックなシューゲイザーサウンドを奏でる。渦を巻くフィードバック・ノイズと甘美なメロディー、女性ヴォーカル、マイブラが形成したスタイルをほぼ完璧に近い形でなぞっている。
 
シューゲイザーの魅力はなんと言っても二律背反の極みがもたらす暴力的なまでの快楽性だと思う。そして、その非現実的な空間が、聴き手をどこか遠くへと連れて行ってくれるのだ。その「連れて行かれる」感じが、何とも心地よい。人間、現実の中で快楽に陶酔するのはなかなか難しいし、どことなく罪な感じがするものだ。だから、非現実的な空間でなければ、なかなか陶酔できないのだ。だから、シューゲイザーの「ぶっ飛んでいる感じ」というのは、快楽主義な自分にとっては必要なものなのだ。
 で、そんな自分なのであるが、総合するとなかなかいいアルバムだと思うし、聴いていて先ほど述べた快楽性もきちんとある。

 二人とも最も影響を受けたアルバムとして、当然のようにLovelessを選んでいる。シューゲイザーだけでなく、UKロックの金字塔とも言える傑作アルバム。そのLovelessの世界を自分たちなりに体現しているのがよく伝わってくる。僕はそれ自体は悪いことだと思わない。むしろ、隠さずにそれを表に出しながらも真っ正面からその「怪物」に挑む様はすごいと思う。
 ただ、あまりにもマイブラ過ぎるところ、ひねりがないところはやはりマイナスに感じられる。つまり、気分によってはマイブラじゃなくてFleeting Joysを聴きたいと思わせるような求心力をサウンドに持たせてほしいのだ。残念ながらそこまでの力はまだ無いし、当然マイブラを超えることもないだろう。

 非常に惜しい。

 おすすめ度★★★(02/02/09)

My Space


Fountains Of Wayne 
Welcome Interstate Managers
 「このアルバムが嫌いになれる人なんて、たぶん心が石でできているに違いない」これは、前作「ユートピア・パークウェイ」のキャッチコピーである。ということは、こんな素晴らしいバンドと契約を切ったレコード会社は、きっと心が石でできているんだろう。なんで契約切るかねぇ。信じられねぇよ。
 4年ぶりとなる3作目。今作もポップ全開です。1曲目「Mexican Wine」から、どキャッチーなナンバー連続。前作に比べると取り巻く状況は良くなかったはずなのに、作風はあきらかにアッパーな感じへと仕上がっています。ビートルズからウィーザーまで、あらゆるタイプの曲がちりばめられているが、ここまでキャッチーに昇華できてしまうのは、アダムとクリスはやっぱり才能があるんだな。そのアーティストの音楽が好きで、自分で同じようなものをやってみようとしても、ここまでクオリティーの高いものは早々作れないだろう。夏のドライブのお供にぜひ。
 おすすめ度★★★★★(03/8/7)

Franz Ferdinand
Franz Ferdinand
 フジロックにも噂されている英国のバンドのデビュー作。いわゆるストロークスに代表されるポスト・パンク/ロックンロールの一派であるのだが、彼らが頭一つ抜けているのは、そのセンスの確かさだろう。
1曲目「ジャクリーン」はダンディーに歌いかけるところから始まる。ライトなニール・ハノン(Devine Comedy)のようだ。2曲目なんかは「Modern Life Is Rabbish」時のBlurのようにも聞こえる。3曲目「Take me Out」は「This is Radio Crush」のようでかっこいい。つまり、英国ロックの最良の部分をうまく料理し、自分たちのメロディーに昇華させているのだ。そして、ストロークスよりは明らかに泥臭い。ポップでスタイリッシュな部分を持ちながらも、その裏にロックの「泥臭さ」が見え隠れしている。その逆はThe musicでないかと思う。彼らの場合は「泥臭さ」が押し出されていて、その裏にポップ的な要素が隠されている。どちらもバランス的にはおもしろくて、インパクトがあり、グルーヴがあり、そして踊れる。
 惜しむらくは、すべての曲が「○○風」と言えてしまうところか。例えばCoralのように色々な音楽性をバックボーンとしながら自分たちの世界を奏でることができるようになると、もっとすごいものができると思う。
 おすすめ度★★★★(04/4/1))

You Could Have It So Much Better

 よいポップソングの条件として、「必殺のフレーズ」の有無は大きい。一度聞いただけで、聞き手を虜にできる即効性を持ってこそ良質のポップソングといえるのではないだろうか。しかし、これだけ多様にシーンが分割している中で、万人の心を引きつけようとするのは難しい。また、リスナー自身の「ポップ性」も多様になってきているだろう。よって、あえてこの時代に「正しいポップアルバム」を作ろうとするのはかなり無茶な冒険といってもよいかもしれない。その冒険に真っ向から挑んでいるのがFranz Ferdinandだ。アルバムを聴く前に、シングルの「Do You Want To」を聴いた。腰が動いた。それからしばらく僕の口笛ヘヴィロテとなった。
 聞けば分かると思うのだが、これまでのポップミュージックの遺産がとにかくあちらこちらに散りばめられている。まさに「宝石箱」のようだ。そして、1曲1曲の濃密さもすごい。先ほど「必殺のフレーズ」について触れたが、まさに「必殺のフレーズ」のみで構成されていると言っても過言ではない。最初から最後までツボを突きまくっているのである。ケンシロウもびっくりするくらい。完成度の高さという点では、今年度Coldplay「X&Y」と双璧をなすだろう。
 僕はあんまりダンサブルなものを聞かない。ライブでもあまり積極的に体を動かさないし、クラブに行っても踊ったりしないだろう。そんな人間さえもフロアへ誘おうとする力がこのアルバムにはある。そういう力を持った音楽こそが正しいポップミュージックなのだと思う。こういう時代だからこそ、数多のリスナーをねじ伏せる力を持ったものを聴きたいし、こういう音楽はとても貴重なものだとも思う。フランツはまた偉大な一歩を踏み出したと思う。

おすすめ度★★
★★☆(05/10/8)
Tonight

Surf’s Up Franz Ferdinand、渾身の3作目。インターバルが4年。その間に吹いていた彼らへの風は、今は「無風」状態といってもいいだろう。ポストパンクの定義の幅がどんどん拡大し、Arctic Monkeysなど個性的な質感を持ったバンドがどんどん出てきた今、「ダンサブルなポップ」という彼らの武器がどれだけ通用するのか。
 結果的に言うと、彼らはそういう聴き手の安い不安感を一蹴するような素晴らしい作品を作ってくれた。地に足の着いたアルバムというか、自分たちの表現、音楽性と真っ向勝負を挑んだような、格闘の後がみられるアルバムとなった。
  リードトラックであるUlyssesは、一聴した感じでは地味な印象。特徴である中毒性を持ったリフやコーラスも抑え気味。続くTurn It OnやNo You Girls Never Knowは王道フランツであるが、そこに落ち着くことはなく、様々な冒険を試みている。
 大胆にシンセを導入したTwilight Omens、Live Alone、Can't Stop Feelingはめちゃめちゃディスコティックだし、Send Him Awayは終盤のリズムの変化がおもしろい。サイケ風ポップのDream Againも新境地だと言えるだろう。そしてラストはアコギで渋く歌われるKatherine Kiss Me。なんと意外なナンバーでアルバムは終わりを迎える。
 ポップなメロディー、強烈なフックを持ったサビなど、フランツサウンドは健在なものの、前作までのような派手さはあまりみられない。シンセの多用や、様々なタイプのビートなどサウンドとしてはむしろ幅が広がっているし、その分きらびやかになりそうなものなのだが、むしろ逆に1曲1曲タイトに仕上がっているようにみえる。見え見えの張りぼてをあしらうのではなく、サウンドの焦点化に見事に成功したポップアルバムだ。

 おすすめ度★★★★☆(25/01/09)

Ulysses


The Fratellis
Here We Stand

 1stは実に「よくできた」作品だと思う。どキャッチーなメロ、そして王道的な曲構成。かつてのUKロックが持っていた根幹的なロックの「楽しさ」を感じさせる素晴らしい作品だと思う。そして、1曲1曲の完成度の高さ。僕も大好きな作品である。
 ただ、このように「よくできた」1stをドロップするバンドは結構いる。そして「よくできた」2ndを作り上げるバンドもそこそこにいる。
 でも、1stほどに「愛せる」2ndを生み出せるバンドは、ほとんどいない。これが現実だ。

 フラテリスはどうなのか?

  結果から言うと、実に見事にそのハードルをクリアしたと思う。基本的な持ち味は変わらないが、曲のアレンジや質感が若干ハードになっている。前作よりも練り込まれた感がなく、曲そのものをもっとダイレクトに表現しようとする姿勢がみられる。ポップなイメージを想定していた人には物足りないかもしれないが、個人的にはこの「ザラザラ」した感じが好きだ。先行シングル「Mistress Mabel」を聴けばわかると思うが、ラフな演奏とポップなメロディーが溶け合うことでドライブ感あふれるロックに仕上がっている。

 そして、彼らの魅力である楽曲の完成度。このアルバムでもかなりの「高打率」をマークしている。やっぱり捨て曲が一切ない。あまりの王道ぶりに、もう少しひねたところもほしくなるのだけれど、このバンドの方向性としては、こういう衒いのないメロディーを書き続けるというところを目指すのがいいのだろう。

とにもかくにも素晴らしいセカンド。もっと話題になってもいいように思うけど。

おすすめ度★★★★(06/21/08)



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