I Hate This Placeのニューアルバム。ショーン・ナニーのソロプロジェクト。キーボード奏者らしく、チープな音を折り重ねながら美しい世界を描いている。
いわゆる歌ものエレポップではあるが、ダンサブルな要素はこのジャンルとしては少ない方である。むしろ叙情的というか儚いメロディーが特徴的で、よりエモーショナルな面を表現しているように見える。
ポップではあるが、内省的なテイストが端々に漂う。ベッドルーム・エレポップという感じだろう。歌詞の世界も割と慎ましやかなものが多い。比喩的な表現が多いが、結局歌われているのは「僕と君」の関係についてだ。ややもすれば恥ずかしささえ覚えてしまうくらい、「僕」の感情はストレートだ。
よってこのような世界観を表現するには、エレクトリックは非常に適しているのだろう。あふれそうな感情をあえて無機質な音へと変換することで、心地よさを引き出すことができるのだから。そして、感情の冷たさや温かさの微妙な表現も上手く描くことができる。
特に良かったのは、チープなシンセ音でかつての宇宙観を思わせるような空間を作り出しているStars。そしてシンセドラムやギターソロの感じがもろ80年代のThrough
Your Eyes。
曲によってはツボに入るが、もう一押し欲しいなと思うのも確か。流れの変化であったり、アンセミックなものを入れるなど、アクセントが欲しかった。
おすすめ度★★★(27/01/09)
Falling For
1曲目を聞いたとたん、妻が「これ女子十二楽坊?」と聞いてきたのには笑ったが、久しぶりにこういったごった煮ポップを聴きました。打ち込み中心で所々にちりばめられたシンセが印象的です。Postal
ServiceやFlaming Lipsの名前なども思い浮かびますが、Flaming Lipsよりは健康的な音作りかな。単純に聴いていて気持ちの良い音なのですが 「Country Robot/A Letter To
Dorothy」のメランコリックなピアノから、徐々にビートが入り力強くなっていく感じなど、聴かせ方のツボを押さえていて、聴き流せません。それでいて、所々に息抜きのような曲を配していて、これがかえってアルバム全体を引き締めるいい効果をもたらしています。プロデュースはジョーイ・ワロンカー。彼もよく聞く名前ですが、いい仕事していますね。曲の出来も素晴らしいです。だから自然と聴き終わるとまたプレイボタンを押してしまいます。エレポップが好きな方なら間違いなく買いだと思います。
イアン3枚目のアルバム。これまでの中で一番プロダクションがしっかりしていて、より万人に受け入れられそうな作品に仕上がっている。とはいっても、売れ線をねらったというわけではなく、イアンの作品にしてはとてもていねいにプロデュースされているのである。ストーン・ローゼズの作品のなかでも僕はイアンの書いた曲が好きで、ジョン・スクワイアの王道的なメロディーもいいが、イアンの浮遊感のある不思議なメロディーがとりわけ好きでした。ソロになってからはいい曲を書いているなと思いながら全体的に荒さが目立って、「もったいないなー」と思うものがたくさんありました。原石としての輝きはあるのだけど、光が方々に散っていて、全体としてぼんやりと見えてしまうような。しかし、今回は「F.E.A.R」でストリングスを使ったり、「WHISPERS」は打ち込みがよく寝られていて、非常に「磨かれて」光がより鮮やかに見える感じです。好みは分かれるところだと思いますが、僕はこういう作品をもっと作ってもらいたい。ちなみに雑誌を見るとよく「渋い」と書かれていますが、そんなことないです。とっても瑞々しい、やはり頼れる男イアン。彼と酒を飲むのが僕の夢です。
アンディ・チェイス、アダム・シュレインジャー(FOW)という現代の優れたポップス職人のバンドであると言うだけで、アルバムの質は必然的に保証される。つまりはこのアルバムもそういった類のものだ。キャッチーなメロディーと呼ばれる曲は数多あっても、彼らの作るメロディーはキャッチーという言葉で語り尽くせないほどの、ポップスとしてのあらゆる魅力が詰まっている。つまり、「ポップな仕上がり」という程度の物ではなく、もう「ポップ」そのものと言っていい純度の高い音楽なのだ。