Review S - 


佐野元春/Scouting for girls/The Sea And Cake/Seachange/The Shins/Sigur Ros/Silversun Pickups/Six By Seven/Snow Patrol/曽我部恵一/曽我部恵一 BAND/Sonic Youth/Soul Flower Union/South/サザンオールスターズ/The Spinto Band/Spirituzlized/スピッツ/The Stairs/Starsailor/The Stills/The Strokes/Sugarplum Fairy/Supercar/Super Furry Animals/Syrup 16g

佐野元春
The Sun
 自分が音楽にのめり込むきっかけとなったアーティストはもうまぎれもなく幼少の頃聞いたサザンの「勝手にシンドバッド」である。あのメロディーは自分の中の「脳内メロディー」といってもよいもので、生まれたときから頭の中にあったようなそんな感覚を覚えた。それ以来自分がどんな音楽を聴くようになってもサザンの存在はかわらずそこにある。自分がほとんど邦楽を聴かないときでもサザンだけはよく聴いていた。そして、この佐野元春も。日本語のロックが初めてかっこいいと思えたのは佐野元春の曲だ。「Visitors」のかっこよさは今でも色褪せない。「SOMEDAY」はリアルタイムではなかったが、僕は「Visitors」というアルバムで、初めてロックとラップが融合している音楽を体験した。今でこそ、あまり語られることはないが、やはり誰も通らなかった道を開いた開拓者なのだと思う。その後も、アルバムが出るたびに買っていたが、このアルバムが出るまでの4年のインターバルはこれまでにない長さであった。不安もあったが、1曲目「月夜を往け」を聴いた瞬間に吹き飛んだ。全体的に言うと、曲自体や曲のつながりにあまりストーリー性はなく、とにかく今自分が「こういうものをやってみたい」というロックがバランスよく並べられている。「Rock'n Roll Night」的な元春の真骨頂というべきナンバーは見あたらない。しかし、安易にそういうものに頼ろうとしないところがこのアルバムの良さを引き立てていると思う。つまり、佐野元春というアーティストに対する絶対的信頼に値するものがこのアルバムには存在しているのだ。それは、いつでもロックの可能性を信じ貪欲に取り組むという表現者としての姿勢である。そこだけはデビューの頃から変わっていないと思う。メロディーの冴えという部分では、若干苦しい部分がないとは言えないが、それでもサウンドのクオリティーの高さは素晴らしい。それは、名うてのミュージシャンが脇を固めていることとは別次元での話だ。
 おすすめ度★★★☆(04/9/2)


Scouting For Girls
Scouting For Girls

 Scouting For Girlsのファースト。英国ではかなり売れているらしい。ピアノを基調とした作りのポップスにソウルフルなヴォーカルが絡む。このヴォーカル、とにかく声が渋い。こういう声で歌えるのはすごくうらやましいな。メロディーの甘酸っぱさもあって、キャッチーな魅力にあふれているその辺のセンスは、The Feelingあたりに通じるところがあると思う。変にフェイクを入れるのではなく、サビの必殺度で勝負するタイプだ。
 「彼女はかわいい」と臆面もなく連呼したり、「君のジェームスボンドになりたい」と直球な歌詞は好き嫌いがあるかもしれない。が、そういう直球な表現をも厭わない、そういう切実さが逆にポップソングとして機能させているように思う。
 そう、本来ポップソングというのは自分たちが表現できないような感情を、音や言葉で見事に表現するものであったはず。ところが、これだけ伝達手段が発達した今では、ポップソングに対してそこまでの機能を求めなくなってきたように思う。そういった中で彼らの紡ぎ出すポップは久しぶりに音楽の「力」を感じさせるようなものであると思う。「これだ!」という個性がないところに、少々物足りなさを感じる人もいるだろうが、楽曲の平均値の高さは見事である。

おすすめ度★★★☆(5/7/08)

It's Not About You



The Sea And Cake
One Bedroom
  個人的にはトータスにあまり興味がないが、Sea And Cakeは結構好きである。やはり前者に比べると圧倒的に聴きやすい。今作も、この聴きやすさ、気持ちよさはもう抜群だ。ギターのカッティングはどこか懐かしさを感じる。説明すると、スミスとかエコバニのような80年代のギターロックのような質感を感じるのだ。または、当時のラフ・トレードのバンド群の音のような。ただ、Sea And Cakeの場合は、そのギターが世界と対峙するためのものとしてなっているわけではなく、あくまで音響的なものを考えての事だと思う。音楽の質を高めることを追求した上でのことだろう。当然そのようなメンバーの意図がアルバムの中で十分に発揮されていて、クオリティーは本当に高い。メロディーもポップであるし、サム・プレコップの歌も素敵である。
 そういうことで、中毒性が高いような気もするのだが、僕はそれほどにのめりこまない。すごく好きな感じなのに。不思議なのだが、どうしてももう一つ夢中になれないのだ。ただ、これまでの作品の中では最高傑作。
  おすすめ度★★★★(03/2/7)


Seachange
Lay Of The Land
ノッティンガム出身の6人組のデビューアルバム。メロディー的にはポストパンク的な感じのものが多いが、どのトラックもみごとに叙情的な仕上がりになっている。ここでポイントになるのは心を打つ叙情性はどのようにして生み出されるかと言うことだ。例えば曲の展開であったり、メロディーの美しさであったり、ストリングスの使い方であったりなど、よくあるのは一つ爆発的にいいものをフィーチャーするやり方である。TFCの場合は圧倒的な曲の良さであろう。また、ディヴァイン・コメディーはニールの歌とメロディーの絡み方であろう。とうていまねできないような圧倒的なクオリティーを提示することによって深みのある叙情性が生まれるのではないかと思う。
 しかし、彼らの場合は特殊だ。僕の聴いた限りでは彼らは、「圧倒的」なるものを持ち合わせていない(ように思う)。ただ、彼らは自分たちのできる範囲で叙情性を突き詰めている。バイオリンの奏で方一つをとっても彼らのこだわりのようなものが感じられる。そういった、「こだわり」が総合的に彼らの音楽に叙情性をもたらしているのだと思う。野球で言うと大砲はいなくても、一つ一つのプレーを全力で行い、勝ちをもぎ取るようなイメージである。なろほど、こういう音楽の作り方もあるのだなと感心した。
 おすすめ度★★★★(04/5/7)


The Shins
Chutes Too Narrow
 ジャケットがかわいい、Shinsのセカンドアルバム。ジャケットのかわいさ通りのポップさを持ちながら、いろいろなアイディアで聴き手に迫ってきます。ビーチ・ボーイズやニュー・ウェイヴ、パンク、またはクイーンなどおそらく自分たちが慣れ親しんできた音楽であり、自分たちが手本とするものをどうやって表現していくか、このアルバムにはそんな彼らの格闘の様子がよく伝わってきます。ジャンル的にはパワー・ポップなのでしょうが、わかりやすさが強調されたバンドが主流となっているパワーポップの世界で、この癖のあるサウンド・メロディーは異質な存在とも言えそうです。即効性はあまりありませんが、1曲1曲のアイディアの絶妙さが聴き手を引きつける、そういう魅力を持った一枚です。ただ、聴き手の素養に左右される部分もあるのではないでしょうか。そこが心配ですが、とかく良いメロディーを追求してしまう僕のような人間にはすごく新鮮に聞こえる作品です。
 おすすめ度★★★★☆(03/1/17)

Sigur Ros
Takk...
 あちこちで語られていることであるが、母国の言葉で「ありがとう」というタイトルが付けられた今作は、Sigur Rosが初めて「こちら側」に立ったアルバムではないかと思う。これまでの作品は、圧倒的な世界観を描きながらも、どこか「踏み絵」的要素が感じられた。本人達にそういう意識はないと思うのだが、アルバムを聴くすべての人々がそこの「住人」になれるかどうか、実は僕自身はこれまで彼らの作品の「住人」になれなかったように感じている。どの曲も本当に美しいし、ヘッドフォンで聴いているとその音の渦の中に吸い込まれそうになる。こういう音は大好きなはずなんだけど、何かが引っかかっていた。これまではその「何か」がよく説明できず、レビューを書くのにも躊躇していたんだけど、今作を聞いてそれが少し分かったように思う。それは、これまでの作品で彼らの向かっている世界が、僕とリンクしていなかったということだ。つまり、彼らの音楽が僕にとってただ単に「非現実」であったということだ。自分としては、あくまで「現実」の上に成り立っている「非日常的」なものなら理解できる。でも彼らの作品には、その「現実」感がまるっきり感じられなかったのだ。もちろん「それでいい」という意見もあるだろう。否定する気はさらさらない。嗜好の違いである。僕は単に「現実」の中の「非現実」を求める人間なのだ。
 でも、そこまで断定できるようになったのは今作がこの「現実」の上に成り立っているという感触をひしひしと感じたからである。この作品には現実を生きる人間の息遣い、血の暖かさ、鼓動が感じられる。人間の生々しさがある。これまでなら「ありがとう」という言葉はきっと人間には向けられなかっただろう。しかし、今作は明らかに人間に現実社会に向けられている。だから、今作の美しさは僕にとってすごく「リアル」だ。曲がコンパクトになった、メロディーがわかりやすくなった、歌メロが充実している、いろいろな意見があるだろう。僕も同感だ。徐々に昂揚していく壮大なサウンドスケープ、この点は今作でも健在で、むしろ一層表現力が豊かになった。でも僕は、ヨンシーが、あの尋常ではない眼差しで、ついに「こちら側」を見るようになったことを大きく評価したい。そう、彼らの音楽を必要としているのは「こちら側」の住人であるのだから。

おすすめ度★★
★★☆(05/10/7)

Med Sud I Eyrum Vid Spilum Endalaust

 シガー・ロスの新作。アイスランドではなく、世界各地でレコーディングされたとのこと。その影響があってか、今作はそれまでにない解放感のあるメロディーと演奏が聴ける。
 1曲目Gobbledigookから新出発を強烈に感じさせてくれる。太古的なビートに手拍子、軽やかなアコギの響き。今までは、彼らの音楽を聴くと、まるで「妖精のサウンドトラック」と思わせられるところがあったが、ここまでくると本当に妖精がこの音楽を奏でているのではないかという気持ちにさせられる。

 
4曲目Vith Spilum Endalaust のポジティヴなメロディーラインはこれまでの彼らからは想像できないほど。もちろんこれまでのような孤高の美しさを秘めたナンバーもポイントとしてちりばめられている。5曲目Festivalはまさに彼らの真骨頂。時が止まってしまいそうなほど濃密な美しさがそこにはある。エンディングに向かって行くにつれて、この瞬間がずっと続いてほしいと思わせるような素晴らしいナンバー。7曲目Ara Baturの壮大なオーケストレーションも実に見事。感動という言葉は安易に使いたくないが、まさに「感動」のアルバムだと言っていいと思う。

 ミニアルバムで見られたアコースティック寄りのサウンドが今作ではさらに成熟し、新たな力を得たような瑞々しさをもって響いている。そして、 人を寄せ付けないような孤高の美しさを持った彼らの歌が、今作で初めて人間に手をさしのべた、そんな風に僕には響いてくる。

おすすめ度★★★★☆(08/05/08)
Gobbledigook

 


Silversun Pickups
Swoon

Surf’s Up Silversun Pickupsの2ndアルバム。前作Carnavalも良質な楽曲が並んだ好盤であったが、2ndではさらなる飛躍を遂げている。

 グランジの影響をもろに受けたようなディストーションギター、咆吼するハイトーンヴォイスなど、確かに「スマパン」という単語が浮かぶ。この辺は前作と同じであるが、今作では全体的にサウンドのアグレッシブさが増し、スケール感がアップした。

 ディストーションのテイストもシューゲイザーというよりは明らかにグランジ寄りで、荒ぶる感情を音のざらつきへと変換しているようなエモーショナルさを感じる。

ストリングスの絡み方がスリリングな The Royal We ,ディスコティックなベースラインから極みへと上り詰めるGrowing Old Is Getting Oldなど楽曲の幅も広がった。そして、良質なメロディーは失われておらず、更なる冴えを見せている。

 また、ヴォーカルの方も歌い方に余裕が出てきたというかちょっとエロティックな雰囲気さえ出てきた。これが非常にこのアルバムのポイントになっていると思う。ビリー・コーガンの場合、やり場のない感情のエクスプロージョンゆえに、あのスタイルが生まれたのではないかと思う。それくらいの必然性を持って「あの声」は聴き手に迫ってきた。Silversun〜の場合は、そういうところよりももっとテクニック的な意図を感じる歌声である。

 そこをどうとらえるかだと思うが、僕は今の形がバンドの「自然な姿」だと思うし、その姿は凛としていてとても美しいと思う。

おすすめ度★★★★(02/05/09)






Six By Seven
TheWay I Feel Today

 以前からずーっと気になっていたバンド。特に「The Closer You Get」が傑作との評判が高かったので、この3rdも大変気になっていた。よくサイケデリックとパンクの融合というタームで語られていたが、このアルバムでは実に幅広い音楽性を持っていることが伝わってくる。1曲目「So Close」から4曲目「Flypaper For Freaks」(これすごい好きだ)まで聴いてみてほしい。見事にバラバラである。2曲目「I.O.U. Love」(これ意外と好きだ)では、意外にポップなつくりのサウンドであったり、3曲目「All My New Best Friends」ではストリングスも入り、壮大なスケールのナンバーである.こういったものも挟みながら、彼らの本流であるバキバキのギターロックも随所に展開されていて、飽きることがない。。スピリチュアライズドが駄目という人もこれは結構聴けるのではないだろうか。個人的にはノイジーでたたみかけるような曲がかっこ良いなと思う。ラウドなだけではなく曲もしっかりしているので、メロディーとサウンドがはまったときは、それはもうかっこいい。大変沸点の高いバンドである。これはもう「The Closer You Get」聴かねばならないと思っている。
 これだけ素晴らしいバンドでありながら、彼らの知名度は英国でも今ひとつらしい。それに対しては、フロントマンのクリス・オレイもかなり苛立ちを感じていたようである。いい作品を作るのに、評価されない、大衆の支持を受けない。「気にするな」と言えばそれまでだが、己をすり減らすようにしてロックンロールに身を投じている彼らには
我慢ならなかったのだろう。一時期はリリースが白紙になるということもあったようだ。しかし、彼らはまた再び音を鳴らし始めた。彼らは自分たちの力を確信している。
「君は僕が輝いているのに気づくかもしれない/違った種類の光でもって」(Requiem For An Oil-Spill Seagull)彼らのロックンロールが輝きを放っていることにシーンはいつ気づくのだろう。「オイルまみれのカモメ」が飛び立つ様をこれからも見守っていきたい。

 
おすすめ度★★★★★(02/3/18)

04
 メンバーも減り、ジャケットも地味になり、しかも1曲目「Untitled」は安いリズムボックスのイントロから始まるなど、非常に不安な立ち上がり。個人的には世間で評判の高い「The Closer You Get 」よりもその後に出た「The Way I Feel Today 」の方が好きで、あのポップ感が失われていないのはいいけど、このトラックの貧相さは何とかならないかと思っていたところ、2曲目「Sometimes I Feel Like..」で劇的な変化を見せます。重くサイケデリックなメロディー、そしてSix By Sevenワールドの始まりを告げる、落雷のようなギターノイズ。格好良すぎです。3曲目は一転してサニーサイド・ポップと思わせつつ、徐々に音を分厚くしていくこれまた彼ら得意の展開。太陽が燦々と輝く世界から,混沌とした世界へと引きずり込まれていく感触がサイケの特徴であるが、そういう意味では、とことんサイケデリックなアルバムだ。そしてシングルにもなった「bochum」の素晴らしいこと。状況的には決して追い風はまだ吹いてきていない。それでもこの曲のメロディーのように彼らの姿勢は前向きだ。「今に必ず飛び立ってやる」そんな気概がびしびしと感じられる。きっと彼らは、追い風など必要としないだろう。これだけ素晴らしい作品を作ることが出来るのだから、自分たちで着実に足を進められるはずだ。2004年に生み出された最高に美しいサイケデリックアルバム。断然支持します。
 
 おすすめ度★★★★(04/10/31)



Snow Patrol
Final Straw
 The Reindeer Sectionのメンバーとしても活躍しているSnow Patrol。グラスゴーのバンドらしく、フックのあるメロディーを作らせたらお手の物で、1曲目「How To Be Dead」から琴線メロディーの連続。サウンド・プロダクションとしてはバラエティーに富んでいて2曲目「WoW」は同郷のPastelsやEugeniusのようにも聞こえるし、5曲目「Spitting Games」は「Bandwagonesque」時のTFCのようでもある。共にグラスゴーのバンドであるが、あの一派に通じる門戸の広いサウンドが特徴的であると言える。7曲目「Run」は英国でもヒットしたが、それに値するべき素晴らしい曲である。目新しさはないが、昔から親しんできた感じのする妙な懐かしさがある。グラスゴー好きなら間違いなく買いの一枚であり、絶対に気に入る一枚でもある。
 ただ、これだけいい曲がそろいながら食い足りないなと感じるところも。それは、アルバム全体の構成にあるような気がする。曲順とか流れがしっかりしていると、楽曲だけではなくアルバム全体の魅力が更に増したのではないかと思う。
 おすすめ度★★★★(04/4/21)

A Hundred Million Suns

 Snow Patrolのニューアルバム。前作「Eyes Open」は売れに売れ,今やUKを代表するスタジアム・ロックバンドとなった。「スタジアム・ロック」と書くとマイナスなイメージを抱く方もいるかもしれないが、こういうバンドには多くの人々に届けようと骨身を削りながら真摯に音楽と向き合っている人が多い。Snow Patrolもまさにそうだと思う。
 若干時代錯誤かとも思えるくらいスケールの大きいメロディー、壮大なアレンジは前作以上。Embraceあたりを思わせるシンガロングナンバーもあり、まだまだ成長を続けているバンドの勢いを感じる。プロデュースはジャックナイフ・リー。メロディーの切れ味を損なわない堅実な仕事をここでもしっかりとこなしている。
 楽曲の屋台骨は、ここに来て更に強靱さを増したというか、ボトムのしっかりしたサウンドを構築している。また、その中にもアコースティックな楽曲が増え、時々メランコリックな余韻を残しつつアルバムは進んでいく。
 全体的な印象としては優秀なアルバムだとは思う。しかしながら、聴き終わった後に残るものがあまりないというか、あまりにもさっぱりとした味わいである。何が悪いというのではないけど、じゃあ何がすごいのと聞かれても答えられない。全体的なスケールアップを果たしていても、結果として聴き手を引きずり込むようなパワーには欠けているような気がするのだ。いい作品だけど、「絶対これがいい」というところまではいかないような、そんなもどかしさが。
 最終曲「The Lightning Strike 」の組曲的アプローチだけが唯一の冒険だったかなと思うが、そこでもっとカオティックな展開を見せたらおもしろかったんじゃないかと思う。

 おすすめ度★★★(11/11/08)


曽我部恵一
曽我部恵一
 サニーデイの解散には本当に驚いた。正直言うと、もう一生このバンドは続くのではないかと思っていたからだ。やはり並々ならぬ期待を常に抱いていたバンドであったので、解散後の活動も厳しく見ていきたいと思っている。
 曽我部のソロ作であるが、「東京」「サニーディ・サービス」をさらにもっさりとさせたような、弾き語り中心の構成となっている。これもまた、曽我部らしいがやはり物足りなさが残るのが本音である。やはり「LOVE ALBUM」まで突き詰めたものが、今作からは伝わってこない。まぁ、これからかなと言う気がする。「ギター」「テレフォン・ラブ」は結構好きだけど。
 おすすめ度★★☆(02/10/26)


曽我部恵一BAND
キラキラ!

 曽我部恵一バンド、1stなんだからもちろん最高傑作。曽我部のソロキャリアの中でも最高傑作だろう。
 曽我部恵一バンドのライブはすごい。しかし、そのすごさを説明するのは難しい。元となる音源がないからだ。そしてこのアルバムは、ライブでこそ感じられた「熱」を感じられる作品となっている。これは実にありがたい作品だと思う。
 メンバー全員が30代で既婚者。キャリアも短くないのに、ロックンロールを演奏する喜びに溢れている。とにかく楽しそう。曽我部も細かいことは気にしないように、歌い演奏している。曲によってはキーが外れていても、ハスキーな声を振り絞るように歌う。なんてこと無いような内容でも、全力で歌う。そこがまず素晴らしいなと思う。一生懸命なことは決してかっこわるい事じゃない。
 かつては文学性の高い歌詞を書いていた曽我部も、ここにきてとてもシンプルな表現をするようになった。「チワワちゃん」という曲は、病気になったチワワにハルコちゃんが手紙を書く。それがかわいいな、という曲。ただそれだけの曲だ。ストレートにもほどがある、そんな声も聞こえてきそうだ。
 「たったそれだけ」のこと。人にとっては取るに足らないことなのかもしれない。しかし「たったそれだけ」のことであることに何の罪もない。それの一体何が悪いのか?世の中は「たったそれだけ」のことで溢れかえっている。思うんだけど、「たったそれだけ」の事をどれだけ鮮やかに表現してみせるか、または「たったそれだけ」の事にどれだけ喜びを見いだせるか、これは自分の人生を生きる上でとても大きな事だと思う。
 人生において、ささやかな喜びの瞬間。「たったそれだけ」のことが、曽我部には「キラキラ!」しているように見えるのだろう。そしてそれを見事にシンプルな言葉と甘いメロディー、フルテンションの演奏で描き出すことができるのだ。もうまいった、文句の付けようがないです。おすすめ度★★★★★(4/25/08)

ハピネス!

Surf’s-Up  曽我部恵一BAND、待望のセカンド。全ての曲が一発録り。じっくり作品を作っていくことよりも、今の自分たちをどれだけリアルにスイートに表現するかということに命をかけるソカバン。その速度感がめちゃめちゃロックンロールなのである。爽快なのである。

 大傑作「キラキラ!」から変わったところはほとんどない。強いて言えば、ひたすらアッパーだった楽曲群が少し落ち着いてきたように思えるところ。例えばシングルとなった「ほし」も少しシフトダウンして、より切ない気持ちを歌おうとしている。また、「東京ディズニーランド」では、家族でディズニーランドに出かけて遊ぶということを、尊い瞬間として優しいタッチで描いている。

 こんな調子で、今回も前作同様全てが名曲と言えるくらい素晴らしい歌が詰め込まれている。ポケットに忍ばせたくなる音楽である。

 ただ、一口に「変わらない」というが、これはソカバンにとっては大きな価値観だと思う。つまり変わらないと言うよりは「変わりようがない」ということだ。生活のきらめきをコラージュし、曽我部流パワーポップへと昇華させること。これが、ソカバンにとって全てなのだと思う。全てである故に変わるはずがないのだ。

 最後に一つだけ、アルバムのラストを飾る「永い夜」について。これはソカバンの中で一番熱い名曲かもしれない。

 戦争はなくならない、悪いこともなくならない、自由だって手に入らない。しかもそれらは、僕らの生活の一部となっている。だけど決して歌は止むことがない。つまりどんなに悲しい現実を目の前にしても、希望や夢は絶対に潰えないということなのだろう。どんな爆弾を持ってしても、破壊することはできない。これまで、ラブソングや家族愛という形で表現されてきた感情が、ここではより直接的にあふれ出している。この「勇気」こそがソカバンなのだ。

おすすめ度★★★★☆(18/06/09)





Sonic Youth
The Eternal

Surf’s-Up Sonic Youth3年ぶりのニューアルバムは20年ぶりにインディーズからのリリースとなった。サーストンはライナーノーツの中で、レーベルのことを「がんじがらめの収容所」と表現しているが、最近は彼らにとって居心地のいいものではなかったのだろう。前作「Rather Ripped」も素晴らしいアルバムであったが、今作を目の前にしてはいささか印象が弱くなってしまった。

 元ペイヴメントのマーク・イボルドをメンバーに加え制作された今作。まず1曲目Sacred Trickster。不協和音的なギターから攻撃的に展開していくこのナンバー。ギターロックならではの切れのいいサウンドとキム・ゴードンの挑発的なヴォーカルがかっこいい。前作よりも、ソリッドさが増して無骨でざらついた彼ら本来のサウンドが展開されている。サーストンの雷鳴のようなギター、自由奔放に飛び回るノイズは冴えに冴え、もはや不可侵の領域に達したと言えそうなほどである。

 しかし、前作で見せたポップな側面も健在で、Antennaでの枯れたメロディーとサーストンのヴォーカルが胸を打つ。1曲1曲のテンポの良さも継承されていて、「Rather Ripped」で得た手応えは大きかったことが感じ取られる。

 そして、このアルバムのすごいところは、何をやってもSonic Youthなところである。まさに「Sonic Youthの音」としか形容できない、ギターロックの理想型がここにはある。Sonic Youthは突出した個性という意味では極めてアート的なバンドであるが、音楽性の高さをここまで見せつけるアルバムを作るとは正直想像していなかった。

 「丸くなる」というのとは違う、円熟したサウンド。しかし、円熟しているのにすごく瑞々しく感じられるのだ。活動を始めてから30年近く経つのに、こういうアルバムを作ってしまう。それは途方もなくすごいことだと思うのだが、どれだけの人が共感してくれるだろう?そんなことは、どうでもいいか。

36歳の大人でさえ、爆音で聴きたくなるロックアルバム。以上。

おすすめ度★★★★☆(15/06/09)

 


Soul Flower Union
LOVE±ZERO
 日本が誇るもののけバンド、ソウル・フラワー・ユニオン。今回はカヴァー曲を中心とした作品ということだが、むしろオリジナル曲が素晴らしい。
 オープニング・チューン「タンザニアからパタゴニアまで」は前作の「サヴァイヴァーズ・バンケット」と並ぶ屈指のキラーチューン。続く2曲目「フリー・バルーン」も中川が得意とするタイプのメロディーで感動的なスロウ・ナンバーだ。しつこく言うが、ニューエストの幻影を求める僕は、これだけでやられてしまった。ほかはディランやクラッシュなどのカバー、ニューエスト時代にも披露した「杉の木の宇宙」も今回再カバー。が、明らかにオリジナル曲もほうが力強く、感動的に聞こえる。これまでその強い思想がサウンドを縛るような感じで頭でっかちにも思えた、ソウルフラワーのスタイルがここにきて過剰さが薄れ、いいバランスになってきたように思う。こっちのスタイルの方がよりロックンロールを感じる。ニューエストの頃が好きだったという人は聴いて欲しい。
 おすすめ度★★★☆(02/9/19)
Shalom! Salaam!
 前作は、カバーと新曲で構成されていたが、今作はライブと新曲が半々の構成となっている。正直、新曲がもっと聴きたいのだが、彼らの今のモードが「自分たちの”いい状態”を、できるだけリアルに届ける」といった感じだから、これがベストと判断したのだろう。
 ヘブライ語とアラビア語で「平和」を意味するアルバムタイトルからもわかるように、これまでのアルバムの中でもとりわけ反戦のメッセージが濃い作品となっている。
バクダッド、ノースコリア、ペシャワール、東ティモール、ゲットーからバビロンまで、全世界に願いよ届けと言わんばかりに、彼らのメッセージはむき出しである。しかし、これだけむき出しであると、聴き手を選ぶことになってしまうのではないかと不安になる。その不安を解消するためには、やはり音楽としてのクオリティーが重要になってくる。その点では、今作も大きくクリアしていると思う。新曲はどの曲もたおやかなメロディーを持っていて、本当に素晴らしい。特に「スイングゲリラ宣言」の軽やかさは、ソウルフラワーの新たな可能性を感じさせる。前作でも感じたことだが、これだけ良い曲を書けるのだから、次回こそすべて新曲でよろしく、中川さん。
 おすすめ度★★★★(03/8/21)

ロロサエ・モナムール
 待ちに待った、ソウルフラワー4年ぶりのフルオリジナルアルバム。全14曲、70分以上の大作である。ソウルフラワーは聞き手にとって特別な存在であることが多いのではないだろうか?というのも強烈な個性と、濃厚なメッセージを持ったバンドであるからだ。何を歌いたいのか、これほどはっきりさせているバンドはそうそうないだろう。ただ、伝えたいことがあまりにも濃厚故、聞き手を時には選別しかねない危険性もはらんできたように思う。本人達はインタービュー等で強く否定してきたが、かくいう自分もどうもソウルフラワーが苦手な時期があった。苦手と言うよりも、この音楽の中に自分の居場所がないような気がしたのである。そういった気持ちを完全に払拭してくれたのが「Screwball Comedy」というアルバムであった。このアルバムを聞いて感じたのは彼らの視点がぐっと大衆よりになったということである。今までは革命家の演説のように聞こえたメッセージが、飲み屋でぼやくオヤジくらいに平易に聞こえるようになったのだ。これは決してレベルが下がったということではない。僕たちにとって社会情勢や平和について考えを巡らせることはそんなに多くはないと思う。そんな中でふと考えることは割とたわいもないような発想でしかない。しかし、これこそが僕たちにとってはリアリティーのある言葉なのだと思う。シロップ16gはそういった僕らのリアリティーを見事に表現しているバンドである。決して崇高な理想を声高に叫ぶことが正しいのではない。オッサンのぼやきや、トイレの落書きにこそ真のメッセージがあるような気がするし、ソウルフラワーもそれを見事に表現できる、いや表現すべきバンドなのだ。
 で前置きが長くなったが、このアルバム、1曲1曲にしっかりとリアリティーが感じられる。でここにきて、そのメッセージというのが多岐に渡ってきている。シンプルなラブソングのようなものもあれば、人間の生き様をアイロニーをこめて描いているものもある。統一感はあまり感じられないのだが、これは彼らのアルバムとしては珍しいことである。ただ、それでも散漫に感じないのは、1曲1曲で物語がしっかりと完結しているからだ。メロディーも未だかつてないくらいの力強さがある。そしてバンドのグルーヴとメッセージの濃さが聞き終わるごとに「何か」を残してくれる。そういった力を持ったアルバムだ。

おすすめ度★★
★★(05/8/24)
カンテ・ディアスポラ

 ソウルフラワー、3年ぶりの新作。最近はすっかりアルバムリリースの間隔が長くなってきたが、分派の活動で忙しいのでしょうね。それでも、昔からのファンとしては、やっぱり本流はソウルフラワーユニオンで、気合いの入ったところを見せてもらいたいのが本音。その本音に答えるように、素晴らしいアルバムを届けてくれた。

 オープニングは「月光ファンファーレ 」。まさにソウルフラワー流進軍歌、ともいうべき1曲。この曲から宴が始まるのかと思うが、今作では今までとはちょっと勝手が違う。

 2曲目「愛の総動員」、めちゃくちゃ好きなナンバーだ。ブラスセクションの入り方が、「Crossbreed Park」時のニューエスト・モデル(ソウルフラワーの前身バンド)を思わせる軽快なニューオリンズ・ファンクナンバー。こういうのが聴きたかったんだ!!間奏のピアノも最高。

 3曲目「海へ行く」。シングルだが、これもまた名曲。これはまさにソウルフラワーなりの叙情的なナンバー。ソウルフラワーになってから、こういう曲は意外に少ない。そう、こういう普遍的で胸打つようなナンバーが聴きたかった。

 という感じで、自分が今まで聴きたいなと思っていたタイプの曲が多くて、ホクホクしてしまう。その後もスライドギターが気持ちいい「道草節」や、エキゾチックで壮大なメロディの「スイミング・プール」、アイリッシュトラッド風の哀愁あふれる「名もなき惑星」など、とにかく名曲揃い。喜怒哀楽を余すところなく表現してしまう、いまのバンドの充実ぶりが伺える。これは決してテクニックを身につけたという類のものではなくて、彼らが紡ぎ出す歌の力がよりダイレクトにわかりやすく伝えられるようになった結果がもたらしたものだと思う。ともすれば、自分たちの趣味性に走りすぎて、リスナーとの距離が感じられるような時代があったが、今の彼らは完全にアジャストすることに成功している。決して、リスナーのウケをねらっているということではなく、いい意味で自分たちの音楽性の折り合いをつけられるようになったのだと思う。

 そして従来の路線である、反戦・反権力の姿勢も忘れてはいない。そして遊び心も。それは、実際にアルバムを聴いて確かめてほしい。

 はっきり言いましょう。彼らの最高傑作です!

おすすめ度★★★★☆(10/03/08)


South
With The Tide
 前作は非常に話題になっていたが、僕は全体的に散漫な印象を抱き、なんとなく器用な若者たちが小手先で作っているような作品と感じた。ただ、音のセンスについては非常に光るものがあったので、大きな深化を期待して聴いてみたのだが、まさに期待通りの作品を彼らは作ってくれた。1曲目「Motiveless Crime」から、サウンドにドラマチックな要素が加わり、聴き応えがあるという点で大幅に成長した。2曲目なんて初期U2のようでもある。以前の彼らからはちょっと想像できなかった音だ。1曲目から4曲目までは本当に圧倒される。中盤からはややゆったりとした感じとなり、トラックも抑えめのアレンジとなっていくのだが、この辺が僕には少々苦しく感じた。後半は正統的なギターロックへと流れていき、これはなかなかよい。全体的には前作を遙かに上回っていると思う。僕としては1曲目から4曲目までのスケールの大きいトラックがすごく良かったので、このテイストを中心としたアルバムを是非とも作ってもらいたいなと思う。ミューズのようにとことんやってしまえばいいんじゃないかな。
 おすすめ度★★★★(03/1/16)

サザンオール
スターズ

涙の海で抱かれたい〜SEA OF LOVE
3年ぶりのサザンのシングルは、大衆の期待に見事に応えたキラーチューン。ここまで露骨に来るとは正直面食らったが、「自分たちのやりたいことをやる」という欲望と「勝ち続けたい」という欲望がほどよくブレンドされた、いいシングルとなったと思う。もうかなり前だが、桑田佳祐が意図的にサザンを「海」「夏」というキーワードの「呪縛」から解き放とうとした時期があった。ロッキンオン・ジャパンで「サザンは夏を捨てた」と発言したこともあった。今でも彼ら自身は「夏のバンド」というようには考えていないと思う。しかしながら、ポップソングが世の中で単なる「消耗品」とならぬための最善の努力を桑田佳祐は払っている。というよりは、そういう生き方しかできないのだろう。日本のポップス史上、デビュー以来「勝ち続けてきた」唯一無二のモンスターバンドとして君臨し続ける姿は、僕にとっては感動的だ。
 表題曲は、かつての「あなただけを」や「Love Affair」のような即効性のあるポップス。サックスの使い方が上手いのも共通している特徴である。「雨上がりにもう一度キスをして」も、ミドルテンポのお得意のパターン。「恋人は南風」はオルガンが印象的。70年代のGSのようにも聞こえるし、ちょっとしめった歌謡曲のようでもある。「経験U」は「マイ・フェラ・レディ」以来のマンピーソング。
 おすすめ度★★★☆(03/8/18)
)
 

キラーストリート
 7年ぶりのニューアルバム。しかも全30曲2枚組。かつて「kamakura」という2枚組アルバムを出したとき「国民待望」というキャッチコピーがつけられたが、まさにこのアルバムもそう呼ばれるべきものだろう。シングルとカップリングが10曲含まれているとはいえ、30曲というボリュームは半端ではないし、自分の気に入った曲だけを持ち歩くという時代に逆行しているのではないかという節さえある。しかし、昔から彼らの音楽に心酔してきた人間にとっては「これぞサザン」ということがわかるはずだ。そう、彼らは常に「こういう時代だからこそ、あえて」というアプローチを取ってきた。それでいて、世間と強引にリンクするというポップの「暴力性」をいかんなく発揮してきた。サザンを単なる大衆的ポップバンドとしか捉えられない人には分からないだろうが、これは本当にすごいことなのだ。
 これだけのボリュームなのだから、当然いろんなタイプの曲がある。オープニングを飾る「からっぽのブルース」は70年代ブルース・ロック、次の「セイシェル」はソウル・ディスコの影響が感じられる曲、そして3曲目「彩」はミディアムテンポのAORナンバー、もう見事にばらばらでこんな感じで続いていく。これだけキャリアがあれば、いろんなパターンの曲を作るのはお手の物だろう。しかしながら、このアルバムのすごいところは1曲1曲がすごく新鮮に響いていることだ。まるで新人バンドのような瑞々しさがある。このアルバムを作っているときにメンバーで合宿したらしいが、アルバム全体に表現への初期衝動がひしひしと感じられる。未だにサザンというバンドは、何かに「飢えている」んだなと思う。
 そうはいいながらも、好きなので注文をつける。歌詞の抽象性が薄まったことは、桑田佳祐自身が意識していることなのだと思うが、個人的にはその抽象性が好きだったのでやはり残念だ。これまでにも書いたことがあるが、彼にはあまりメッセージめいたものは似合わない。それでも嬉しいのは「リボンの騎士」のようなエロエロな歌詞を未だに書いてくれることだ。こういう遊び心はずっと持っていてください桑田さん。
 ポップの使命感を認識し、それを全うしようとするものの、その重圧に押しつぶされるものは少なくない。悲しいことだがブライアン・ウィルソンさえそういう時期があった。そういった中で、セールス的にもクオリティー的にも一度も下降することなく30年近くシーンの最前線でやり続けているということは、もう天文学的に途方もないことだ。本当にすごいバンドです。
 

おすすめ度★★
★★☆(05/11/5)

The Spinto Band
Moonwink

 前作「Nice And Nicely Done」が出たのが折しも、Clap Your Hands Say Yearが大注目されていた頃で、DIY精神を持ったロックバンドの一つとしてThe Spinto Bandもとらえられていたように思う。
 こういうバンドのいいところは、適度なチープ感があるところだと思う。あまりにも濃密、あまりにも高級なものは合わない、という人もいるだろう。職人の手仕事、という感じではなくて、好きな人たちが集まって老舗の味を思い浮かべながらつくったようなところが逆に良かったりもする。ある種の「未完成感」のもたらす心地よさとでも言おうか。
 The Spinto Bandを聴いていると、自分たちの隠れ家で、わいわいやりながら作っている姿が何となく想像される。つまりは作り手の顔が見える音楽なのだ。彼らは昔からの知り合い同士で結成されたとのことだが、音楽からもその気さくな関係性みたいなものが伺える。小難しく考えずに、楽しみながら作る音楽だってあるんだと言わんばかりに楽しいポップアルバムが完成した。
 この新作も、相変わらずの高性能おもちゃ箱ポップ。ただ以前と比べると確実に深化を見せていて、特にメロディーセンスは前作は割と素直にならされていたものが、今作ではより「ひねくれ度」が増しているように感じる。難解になったというわけではなくて、あえて古風なポップス調やオペラ調にしてみたりなど、適度な遊び心があるのだ。
 前作の「Oh Mandy」のようなメランコリックな名曲は無いが、テンポ良くポップな楽曲が次から次へと出てくる感じは、とても心地よい。もっと評価されてもいいような(全く持って地味じゃないですか?)。The Shinsあたりにも通じるインディー精神が漲ったいいアルバムです。

 おすすめ度★★★★(24/10/08)

Summer Grof


Spirituzlized
Let It Come Down
 まず今年のベスト5以内は間違いのないところ。すごい作品である。ベタであるが、バンド名のようにとてもスピリチュアルな音楽である。ゴスペルコーラス、ストリングス、近頃のロックアルバムにはもう当たり前のように取り入れられているが、なにか作品の中で甘さや美しさを作り出したいために利用されていることも少なくない。しかし、この作品では「これしかない」という必然さをもって鳴り響いている。「The Long And Winding road」のストリングスとは訳が違うのだ。意志を持った言葉と、意志を持った音楽、そしてこれらを結実しようと真っ正面から取り組んだジェイソン・ピアーズのピュアネス。まさにため息しか出てこない。感動の大作である。
 ブライアン・ウィルソンは「ペットサウンズ」の後、「スマイル」を作ることを断念したが、ジェイソン・ピアーズは「宇宙遊泳」の後、このアルバムを作ることができた。と言えばわかってもらえるであろうか。
 おすすめ度★★★★★(01/10/31)


Amazing Grace

前作「Let It Comes Down」ではまるで今そこで神と正対しているのではないかというくらい敬虔でぶっ壊れたゴスペルを奏でていたジェイソン・ピアーズ。言うまでもなく大傑作であるが、今作は再びガレージっぽさが強くなっていて、何よりも驚いたのが1曲1曲がコンパクトなサイズに納められていると言うことである(レコーディング期間も3週間と、彼にしては異例の短さだ)。しかしながら、あの怒濤のサイケデリアは健在である。ただ、短いのは非常に聞きやすくはあるけれど、Spiritualizedに関してはどうしてもボリュームを求めてしまうので個人的にはやや不満である。やっぱり、一種の「過剰さ」を求めてしまうのである。「宇宙遊泳」しかり「Let It Comes Down」しかり、「ちょっとやりすぎなんじゃないの」とさえ思えるところが魅力でもあったので、次回作はぜひ。
 おすすめ度★★★☆(03/10/26)

Songs In A&E

 Spiritualized5年ぶりの新作。肺炎をこじらせて、一時期は危険な状態に陥ったジェイソンであったが、回復し実に素晴らしいアルバムを作ってくれた。
 まず、のっけからあまりのスペイシーぶりに驚く。いきなり「浮遊」するので、聴き手は覚悟してもらいたい。
 ストリングスやコーラスをふんだんに使ったゴスペル調の曲が多めになっている。これらの曲は、前々作「Let It Come Down」に入っていても前々おかしくないくらいテイストが似ている。前々作が好きな人なら、絶対におすすめの1枚だ。しかし、前作「Amazing Grace」で披露したようなラウドなナンバーも織り交ぜられている。そしてまた、時折挟まれるインストが実にいい味を出している。聴き手にかみしめる余韻を与えてくれるのである。
 しかし、一番の特徴は、シンガロングなメロディーが満載であるというところだろう。ライヴなんかでは合唱するシーンがたくさん観られると思う。とにかく今回のspiritualizedは口ずさめる。元々ソングライティングの力は半端ないくらい高いが、ここまで歌メロを中心に据えた作品を出したのは初めてだろう。そして、今作光っているのはジェイソンの歌声である。ギリギリのところで絞り出すように歌われる、その声がとてもよい。最近、アコースティックライヴをしていたようだが、なるほどと頷けるくらいこのアルバムのジェイソンは「枯れて」いる。メロディーが極上なだけに、より味わい深く響くのだ。
  ただ、これまでの作品にかいま見られた、オーバー・ザ・トップな感じはない。「ぶっとぶ」というところまではいっていない気もするが、「ヤバイ」雰囲気は十分に醸し出している。そこで評価が分かれるかもしれないが、個人的にはストライク。

 おすすめ度★★★★☆(6/6/08)


スピッツ
三日月ロック
 スピッツのアルバムは買うことを躊躇することがない。スピッツのような良さを持ったバンドは皆無であるし、アルバムの質の高さはもはや間違いのないものだからである。いったい草野マサムネという男は、どこまで素晴らしい曲を量産し続けるのだろう。この新作「三日月ロック」もまさに絶品である。「インディゴ地平線」から「ハヤブサ」における濃密な流れを経て、今回はある意味「自然体」のアルバムとそんな風に言えるのではないだろうか。個人的には「インディゴ地平線」のあのいびつな感じが好きだったのだが、「三日月ロック」はそういった部分があまり感じられない。しかしながらよく聞き込んでいくと、あのいびつな感じはやはり健在であった。「ローテク・ロマンティカ」の詩なんか圧巻である。いつもこの「いびつさ」について考えるのだが、うーん上手く表現できない。「名前を付けてやる」と同じくらい好きなアルバムである。
 おすすめ度★★★★☆(02/10/14)

スーベニア
 基本的にスピッツのアルバムとは安心して買えるものである。どのアルバムももはや「天才」としか言いようのない極上のメロディーとへんてこな歌詞がいい具合に溶け合っている。どのアルバムもだ。しかもどの作品にも微妙に変化があって、新鮮な気持ちで聴ける。そしてこのアルバムでも1曲目「春の歌」からそのスピッツワールドは全開である。ただ、これまであったサウンド面の変化は今までの流れから比べると特に見つけることが出来ない。5曲目「ナンプラー日和」は三線がフィーチャーされた沖縄風メロディーであるが、特に強烈なインパクトを残すまでには至っていない。しかしながら、少し驚いたのが2曲目「ありふれた人生」の歌詞だ。「ありふれた人生を探していた/傷つきたくないから/君といる時間は短すぎて/来週まで持つかな」という歌詞で始まるのだが、拍子抜けするくらいストレートだ。これまでどことなく変態的な匂いさえ漂わせていた歌詞が、今作ではあまり見られないような気がする。今までよりも聴き手に強いイメージを与える詩とでも言おうか、個人的にはこういうスピッツも大いにありだと思う。メロディーは相変わらず本当に素晴らしい。シングル「正夢」なんかは、草野マサムネにしか書けない大名曲である。これだけ普通に捨て曲無しのアルバムを生み出せることに毎回感動させられる。

おすすめ度★★★★☆
(05/1/25)

The Stairs
Who Is This Is

Surfs Up  The Stairs,幻のセカンドアルバムが今になって急に発売された。わーい。

 と、軽い感じで始めてみたが、簡単に説明するとThe Stairsは英国出身の3人組。91年にデビュー.60'sR&Bをベースに骨太のロックンロール、といえば「そんなバンドほかにもいるじゃないか」と思うかもしれないが、彼らほど60'sの「あの感じ」にこだわったバンドはいないだろう。超の字が付くほど50's,60'sオタクの彼らは、機材や録音まで当時のスタイルにこだわった。

 ストイックというか、あまりの不器用だったのか彼らは1stをリリースするも、完成した2ndを世に出すことなく解散してしまう。そして、この僕もその貴重な1stを引っ越しで紛失してしまうという憂き目にあう・・・

 それがなぜ今になって発売となったのかはわからないが、埋もれさせてしまうには確かにあまりにももったいなさすぎる出来だ。シンプルで土臭いロックンロールであるが、1stよりもさらにR&B色を増し、ボトムのしっかりした音作りをしている。バランスよりも、個々の出す音をなるべくいじらないようにして、ラフな質感を出している。そして、そのラフな質感こそがあの60年代の雰囲気なのだと思う。今のストーンズが好きではないストーンズファンなんかに聴いて欲しいと思う。

 ちなみに中心人物のエドガー・ジョーンズは近年になって精力的にソロ活動をしている。また、ポール・ウェラーやノエル・ギャラガーなど彼の音楽の魅力を公言しているアーティストも増えてきている。The La'sがこれだけ評価されているのだから、そろそろスポットライトが当たっても良いのではないか、と思うのだが。

 おすすめ度★★★★(06/12/08)


Starsailor
Love Is Here
 タワレコでは、VERVEやCOLDPLAY、TRAVIS等と一緒に置かれていました。この中で、あえて近いものを選ぶとしたらVERVEかなと思うのですが、ちょっと違うような気もします。メロディはやや泣きで、アコギと唄中心の作りもなかなかかっこいいです。ただ残念ながら、「これは名曲」と呼べるものがなかった。まだ若いんだし、これからという気もするが。ただ、ソングライティングの力には可能性を感じるので次回作が楽しみ。絶対いいレコードを生み出せるバンドです。ちなみにプロデュースはスティーブ・オズボーン。今年は彼が流行りそう。
 おすすめ度★★★(01/9/26)

Silence Is Easy

1stの時はTravisやColdplayと比肩されるくらい盛り上がっていたStarsailor。最近、やや地味だなぁと思っていたらすばらしいアルバムを届けてくれた。2曲ほどあのフィル・スペクター(彼は「Let It Be・・・Naked」のことをどう思っているのだろう)がプロデュースしたということくらいしか話題になっていなかったようですが、はっきりいってこれはいいです。前作は高い評価を受けていましたが、個人的にはメロディセンスが光るもののもう少し曲のバラエティーが必要ではないかと思っていました。今作はそんな私のような人の願いをまさに叶えたように、バラエティーに富んでいます。その分ポップになったといえるかもしれません。一曲目「Music Was Saved」はタイトルは重いのに、めちゃくちゃ明るいポップチューン。もういきなり度肝を抜かれましたが、個人的には大正解だと思います。
 もちろん、前作のようなスローチューンも時々ちりばめられていますが、以前に比べるとメロディーが進化していて、聴いていて疲れる感じがしません。彼らのアルバムを繰り返し何度も聞いているのはちょっと不思議な現象です。ここまでいうと大げさかもしれませんが、The Verveを想起させるようなところもあり、時々はっとさせられます。Verve不在の今、こういったノーザン・ソウルの旗手としてがんばってもらいたいです。

 
おすすめ度★★★★(03/11/18)


The Stills
Logic Will Break Your Heart
 NYを拠点に活動しているStillsのデビュー・アルバム。何でもエコバニの前座などもつとめたことがある彼ら。確かにエコバニのようなソリッドな感触を持ったギターが耳につく。現在のシーンは、何か変わったアプローチを探そうと懸命であるが、彼らは驚くほど直球だ。ストレートなヴォーカル、ストレートなメロディー。そのストレートさが聴き手の心に容赦なく刺さってくる。ギミックなしに感動させる力を持っていると思うし、そのことはこの作品を聴けば明らかだ。非常に瑞々しくて、かっこいいロックがここにある。僕は結構やみつきになっている一人であるが、UKロックが好きな人は、この手の音は絶対好きなはず。
 おすすめ度★★★★(04/1/7)
僕は結構やみつきになっている
Oceans Will Rise

 The Stillsの3rd。1stがむちゃくちゃ好きな自分にとっては、前作の音は正直がっかりした。ニューウェーブ色を強く含みながらも、その奥底に見える情念の炎を揺らしながら高揚していくギターロック。そんなところが大好きだったのだが、セカンドではそのよかった部分がバッサリ切り捨てられ、新たなエッセンスも大振りが目立ち、意欲だけが空回りしたような残念な結果に終わった。
 レーベルも移籍し、新たな環境をバックに制作された3rd。メロディー的には、1stの頃の良さが少し戻ってきたような感がある。ギターロック的切なさを含んだメロディーが随所に見られるようになった。
 曲ごとに見ていくと2曲目「Snow In California」はコールドプレイやスノパトに近いエモーショナルな美メロナンバー。かと思えば3曲目「Snakecharming The Masses」はアフロチックなシンプルなビートが特徴的なナンバー。また、1stの頃を思わせる熱情的なロックナンバー「Being Here」もあって、なかなかバラエティーに富んだ内容。やや分散的な印象は否めないが、このバンドが幅広い音楽性を持っていて、今後方向性を定めていけば次の壁をブレイクスルーできるという確信を持てる内容だと思う。
 僕の中ではThe StillsはEditorsなんかと並んで、情念をクールに表現できるバンドという位置づけをしていた。素人ながらあえて言うと、やはりもっと直情的に鳴らした方がインパクトがあると思う。1stにこだわる悪しきファンの戯れ言です。

 おすすめ度★★★☆(01/11/08)

Being Here


Snakecharming The Masses


The Strokes
Is This It
 これ、結構売れているみたいですね。だって、僕の住む田舎のCDショップにもあったもん。ヴエルベッツとかストゥージズがよく引き合いに出されていますが、ヴェルベッツとは違うような気がする。でもカッコイイロックンロールであり、メロディもよい(ライブ合唱系)。特に8曲目と11曲目がいい。惜しいなと思うところは、もう少し統一感を出してほしかった。(とはいっても、この微妙な統一感のなさが彼らの魅力か)5曲目「someday」はいい曲だが、ちょっとポップすぎる感じが。次のアルバムが勝負作だね。裏ジャケのメンバーかっこいい。            
おすすめ度★★★★ (01/8/26)

Room On Fire

 新しいロックンロール・ジェネレーションの旗手としてストロークスの果たした役割というのはすごく大きなものであったことは現在の音楽シーンを見てもよくわかる。個人的にはその後出てきたバンドのほとんどには興味がないのだが、こういった初期衝動的なロックンロールというのはこれだけ複雑になった社会の中でも非常に有効であるという事実はすごく興味深い。そして、僕もストロークスの1stには結構やられたクチである。単なるガレージパンクというのではなく、かつての音楽が持っていたメロディーの力や、たたずまいを含めたメンバーの表現者としての魅力が感じられたからだ。ロックンロール・ヒーローという陳腐な言葉も彼らには意外となじむ。
 
さて、新作はどんな感じかと僕も楽しみにしていたが、パンキッシュな前作に比べて音楽的なアイディアの豊かさが増している。音の一つ一つが練り上げられている感じだ。
 
こういった音楽をやるNYのバンドといえば、ほとんどの人がTelevisionをあげるわけだけど、2ndの方がアイディア的にTelevisionに近いものを感じる。Televisionの「マーキー・ムーン」はパンクに傾きかけていた時代の中で、勢いだけではなくヴェルヴェット・アンダーグラウンドの退廃感や音楽的アイディアをうまく融合している
作品ではないかと思う。
トロークスもまさに似たような状況の中で、彼らなりのアプローチを試みているわけで、やはり一筋縄ではいかない存在なのだ。ただ、前作のようなワイルドな感触が後退しているようにも感じる。「Take It Or Leave It」のようなやぶれかぶれな勢いを持ったナンバーかないのがちと残念
 おすすめ度★★★☆(03/12/7)

First Impressions Of Earth
The Strokes待望の3作目。ロックを聞く側としてアーティストにはいろいろな期待をしてしまうが、僕が彼らに期待するものは、サウンドの斬新さとロックン・ロールのシンプルなかっこよさが同居した作品である。しかし、もちろん期待しているものを普通に作ってしまうのはあまりにも彼ららしくない、とも思う。よって、いい意味で「裏切られる」のが一番良いのかな、と思う。
 このアルバムの不思議なところは、今までと凄く変わったわけではないのに、何もかもが瑞々しく聞こえるところだ。Juiceboxのベースライン、Heart In A Cageのなまめかしいイントロのギター、Razorbladeでの中近東的なギター・ソロ、Ask Me Anythingでのクラシックの大胆な導入、もともと豊富なアイディアを作品に生かしてきたバンドである。いろんな音が聞こえてきて普通であるし、むしろそれはStrokesに誰もが期待するところだろう。しかし、これが今までとは明らかに違う感触をもたらしてくれる。「想定内」のサウンドでありながら「想定外」の感動を覚えてしまうのは何故だろう?ジュリアンの歌い方が変わったせいだろうか?それだけではないように思う。
 僕自身は、彼らが今回「本気」で「ロックンロール・アルバム」を作ったからではないかと思う。これまで彼らの作品に感じたものは極上の「かっこよさ」である。音楽的にも十分に魅力的であったが、それよりもアイディアや彼らのプレイ(決して上手くはないけど)から伝わってくるある種の「感覚」が他に比べてずば抜けてかっこいいのだ。あえて本気でやらない「かっこよさ」とでも言えばいいのか。全曲シングルカットできそうなメロディーを持っていながら、あえてシングル的な部分をそぎ落として、アルバムのバランスを図っていたような要素が感じられた。それがむしろかっこよかったのだ。
 それが今作では、本気で音楽を作っている、という印象を受ける。これは、ほぼ全曲シングルカットできる。「あえてやらない」かっこよさを捨て、ベストを尽くしてクオリティーを上げる方向性を選んだと思う。で、これが見事に成功している。今までとは違う「かっこよさ」を身につけた今のStrokesはある意味ロックバンドの理想型といえるかもしれない。
 

おすすめ度★★
★★★(06/1/22)

Sugarplum Fairy
Young&Armed
 Mando Diaoのグスタフの弟達のバンド。ジャケットを見ておわかりの通り、佇まいは兄貴と同じ。60、70年代のロックの最良の部分をベースにしているあたりも似ている。ただ違いとしては、マンドゥが1stでそこにパンク的疾走感を加えてロックへの初期衝動度を過剰なまでに引き出したのに対し、彼らは過去の財産をいろいろな解釈の元に聴かせようとしている点であろう。
 1曲目いきなり薄っぺらいトランペットにびっくりし、間違って買ったか製造上のミスかと思い、最初は「ふざけんな!」という印象を持ったのだが、メロディーは60年代のマージービートを連想させるもので、こういったものを持ってくるあたりはなかなかやるなと言う感じである。ただキャッチなーメロディーにあふれているが、全体の印象としてはやはり小粒という印象を受ける。何というか、これ以上大きくなる感じがしないのだ。やはり今以上のプラスアルファが欲しい。センス的には面白いものを持っているので、それを新鮮なやり方で聴かせて欲しいのだ。今のままではどうにももったいない感じがする。今後に期待したいところである。ちなみに「Far Away From A Man」「Sweet Jackie」はとんでもなく名曲です。マンドゥ好きな人は必聴です。この2曲だけでもお金払って良かったなとは思います。

おすすめ度★★★
(05/2/3)

Supercar
Highvision
 初めて聴いたときの感想は「あぁ、ついにあちら側にいってしまったなぁ」というものであった。そう、R.E.M.の「Out Of Time」を聴いたときの感想に似ている。つまり余計なものは一切そぎ落とされたようなストイックなサウンド。その様子はまるでこの世に存在しないかのように透明である。ついにその境地に達してしまったのか、「スリーアウトチェンジ」の頃から考えると、今の彼らの姿は想像がつかない。2作目からのテクノ的アプローチは今作でも健在であるが、必要最低限に抑えられている。この感じが逆に彼らの世界に深みと広がりを与えているように思う。散文的な歌詞もしかり。シンプル・イズ・ベストを地でいっているような作品である。
 よってこの評もシンプルな言葉で語りたい。こういうものが日本でも生まれるようになったのは本当に素晴らしいことである。大好きな作品である。
 おすすめ度★★★★☆(02/5/08)


Super Furry Animals
Phantom Power
 前作「Rings Around The World」から聴きだした人間なので、偉そうなことは言えないのだが、「Rings〜」は彼らにとって覚醒のアルバムだったと思っている。時に涙が出そうなほど美しく、またコミカルな面を見せながら、彼らはアルバムの中で世界を駆けめぐった。その蹂躙具合が痛快だった。それまでの作品が「変わった」とか「へんてこ」といった言葉で語られていたのに対し、「Rings〜」は、ビートルズやビーチ・ボーイズなど過去のロックの名作と肩を並べられるくらいの、「本格派」の作品であると思う。
 今作では、その前作で培われたものが見事に生かされていると思う。メロディーはずいぶんと骨太になったが、美しさは失われていない。演奏がシンプルになった分、わかりやすくなった。「本格派」という意味では、今作の方が上だ。前作にあったユーモアやエレクトロニカは減退したが、テーマ的に重いので仕方のないところだと思う。あんまり知らなかったんだけど、ウェールズ出身ということで、これまでも作品の
中で結構政治的、民族的なメッセージも扱ってきたようである。
しかし、そういうテーマを扱ってきたバンドが、しばしうさんくさく感じられるものが多い中で、スーファリには、不思議とそういうものを感じない。なぜかはわからないが、それを感じさせないのも立派な才能だと思う。
 ただ、個人的にはジャケットが・・・。僕のセンスには、ちと合わない。
 おすすめ度★★★★(03/8/8)

Love Craft
 前々作「Rings Around The World」が豪華絢爛なポップアルバムだったのに対し、前作「Phantom Power」は一転してなるべく余計なものを排除して、曲そのものがダイレクトに伝わってくる骨太な作品だった。で、今作「Love Craft」はこれまで彼らがアルバムごとに挑戦し、得てきた要素をバランスよく盛り込んだ素晴らしい作品である。
 1曲目水に飛び込む音で始まる「Zoom!」。ギターと渋いエレピで彼ららしいメロディーが展開されていく。「Phantom Power」に入っていてもおかしくない、割にシンプルな曲であるが、しかし、その後はドタバタしたワルツ調「The Horn」、彼ららしいヘンテコ・ダンスチューン「Lazer Beam」など以前の彼らの作品で見られたような「スーファリ的」アレンジが施された曲がいくつも登場する。でも、今までのものと微妙に違う感じがするのはメロディーの質とアレンジの力がここに来て向上してきているからだと思う。かつてのアルバムでは楽しいけどちょっと遊びすぎでは、詰め込みすぎではというのが、このアルバムにはない。遊んでいるようで遊んでいないのだ。しっかりと作り込まれている。このアルバム全体を包む妖艶な雰囲気は、そういったがっちりしたプロデュースがら生まれたものだと思う。で、結果的にはその選択が大正解だったと思う。彼らの美しいメロディーが最大限に生かされた、サイケデリックでソウルフルなアルバムとなっている。彼らの作品の中で一番好きです。

おすすめ度★★
★★☆(05/10/22)
Dark Days/Light Years

Surf’s-Up Super Furry Animals、9枚目のアルバム。1年半と割と短いインターバルでドロップされた新作である。その前作「Hey Venus」は、かなりポップな音を鳴らしていて個人的には好きだったんだけど、従来のファンはどう受け止めたのか気になる作品でもあった。

 さてこの新作、前作のポップさとコンパクトさはそのまま継承されつつ、彼ら独特のいびつな音楽観が良い具合に音に反映されていて、個人的にはかなりツボな音である。

 なんといってもうれしいのは、かつてあった「切れの良さ」「フットワークの軽さ」が復活していることである。

 個人的にはあの大傑作「Rings Around The World」以降、質は高いんだけどなんとなくオーバー・プロデュース気味であったような感をずっと抱き続けていた。なんとなく小難しくなっちゃってるというか、ダイレクトに楽しめないようなところを感じていた。

しかし、このアルバムにそういうところは全くない。もうすんなり感じるままに楽しめるアルバムである。彼ら特有のリフレイン・メロディーが炸裂する極上のロックチューンがこれでもかと続くので、なかなか途中で聴くのをやめられないような中毒性のあるアルバムに仕上がっている。

 特にInaugural Tramsのあっけらかんとしたポップに感激。こういうのをずっと待っていた。また、壮大なスケールを持ったCardiff In the Sun、中近東チックな妖しさを秘めたThe Very Best Of Neil Diamondなどスーファリにしかできない局所的ロックンロールが全開。よく幅広い音楽性が評価されるバンドであるが、ここまで自分たちの音へと昇華しているバンドはいないだろう。

 ジャケットでピート・ファウラーや田名網敬一が描いているような奇天烈だけどめちゃくちゃ生命力のあるような、こんな音楽をこれからも期待したいし、今後はもっとこう、「思いつき一発」のような更にセンスだけで作ってしまうようなアルバムも聴いてみたい。

おすすめ度★★★★☆(16/05/09)







Syrup 16g
HELL-SEE
 最近邦楽がつまらない。本当に「聴きたい」と思えるようなものが少ないのだ。もともとヒップホップはほとんど聴かないし、よくチャートに入っているうすっぺらい「青春像」を歌っているバンドたちはどうにかならないものだろうか。具合が悪くなってくる。
 そんな中、前から気になっていたのがこのシロップ16gだ。これまで試聴したことはあるが、もう一つ線の細い感じがして、購入までには至らなかった。しかし、今回の「15曲入って1,500円」というのを聞いて、お得というよりも、彼らの「ぶち切れた」感覚が気になってしょうがなかったのでついに手に入れた。
 聴いてみて、「何でもっと早く聴かなかったのか・・・」と率直に思った。これだけの緊張感が音にひしひしと現れているギターバンドは、世界でもそういない。サウンド的には音数の少ないギターロックといえば身もふたもないが、初期スミスやマイティー・レモンドロップスのようなソリッドさがメロディーを引き立てている。エコー&ザ・バニーメンが好きな人なども気に入ると思う。しかしやはり特筆すべきは歌詞だろう。この五十嵐隆の言葉を前述の人気バンドたちが見たらどう思うのだろう
「この間 俺はまた でかい過ち犯したんだ それはただ 時が経ちゃ 忘れていく問題だろうか それはないな今もまだ 空っぽのままで生きてるよ」(不眠症)「使えないものは駆除し 排除されるよなぁ 雑踏その何割 いらない人だろう」(正常)「ちゃんとやんなきゃ 素敵な未来がどこかへ 逃げちまうのかなぁ ちゃんとやんなきゃって 素敵な未来なんてもんは 初めからねぇだろう」(末期症状)
 おすすめ度★★★★★(02/5/24)


パープルムカデ 
 
4曲入りのシングル。1曲目「パープルムカデ」は少しローファイの入ったこれまでにないタイプの曲。詞もこれまでの作品に比べると、幾分感覚的な言葉が断片的に現れる感じになってきている。2曲目は「シロップ節」とも言えるような、ミディアムなギターナンバー。3曲目「回送」はエレクトロな曲ながら、メロディーがもろシロップであるので、全く違和感がない。というよりは、非常にいい味を出している。4曲目「根腐れ」は「俺の魂は 根腐れを起こしてしまった」という言葉から始まる弾き語りのナンバー。
 4曲ともバラバラであるが、どれもシロップの魅力が体現されていると思う。これだけ後ろ向きな言葉が並びながらも、結局は一縷の希望が描かれているというのがいつも不思議である。本当に素晴らしいバンドです。

 おすすめ度★★★★(03/11/4)
)


Mouth To Mouse
  実は以前シングル「My Song」のレビューを書こうとしてどうしても書けなかったことがある。「あなたを見ていたい その場にいれる時だけ 裸を見ていたい 言葉はすぐに色褪せる」あまりにもストレートなラブソング。名曲「Reborn」を凌ぐ傑作だと思うのだが、シロップの中で、この曲がどう位置づけられるのかやはり僕には分からなかったし、この曲の裏にあるだろうものを一生懸命読み取ろうとしたが、何も分からなかった。
 このアルバムにも収録されているのだが、しかしその世界観がこのアルバムでは見事に違和感なくとけ込むことに成功している。彼らは作品の中で、一貫して一見絶望の光景にしか見えない「そこ」にこそ何かしらの希望があるということを伝えようとしているように思う。そういう視点でよくよく考えてみると「My Song」に広がる光景というのは、ありきたりのようで実はなかなか存在しないものだ。これだけストレートに想いを伝えると言うこと自体が何か「白昼夢」のようだ。しかし、シロップは本気で信じている。存在しないような愛だって、確かに成立することを。「変態」では、いつかさなぎが、完璧なフォルムを持った蝶になり大空に羽ばたくことを、「ハミングバード」では、セミも花も悲しいと言える人間の感性の正しさを。歪で空想めいたことが、確かに存在すると言うことを、彼らは一貫として歌い続けている。そういった意味では「My Song」も歪な楽曲群の一つなのだろう。
 前作「Hell-See」と同様、バランスよく楽曲が並べられているアルバムである。アルバムのイントロがレディオヘッドのあるアルバムのようであるが、1曲目「実弾」から最後までどうしようもなく鋭い言葉が並んでいる。そして、サウンド的にもさらなる成熟を見せている。エレクトロを随所に使いながらも、ギターロックの様々な魅力が感じられるアルバムである。当然、メロディーもこれまでの中で最高のクオリティーだと思う。
 おすすめ度★★★★★(04/5/26)

delayedead
 恐ろしい。そんな言葉が思わず浮かぶ。「delayed」のように過去のストックが中心となっているものの、よくもまぁこの短い間にこれだけすごいものを作ったものだ。ただ「delayed」が「Reborn」のような穏やかな作品を基調としているのに対して、「Delaydead」はあくまで「ダークサイド・オブ・シロップ」だ。曲調も攻撃的で「前頭葉」「真空」のように無味乾燥な現実を鮮やかな言葉で描くというナンバーが中心となっている。サウンドも2週間で完成させたと言うだけあって、多少のラフさが残るものの、音の一つ一つに切迫感があって、まさにこのバンドの「グルーヴ」感が出ていると言えると思う。何だろう、もうとにかく言葉も音も吐き出さないと気が済まないのだろう。それだけの切実感や表現衝動が渦を巻いている。
 もっともっと時間をかければもっと質の高いものになるかもしれない。曲を厳選して、アレンジに工夫を凝らせばまだまだすごい作品になるのかもしれない。しかし、今のシロップにとってそういう作業は何の意味も持たない。このジャケットにある飛行機のように、彼らにも今飛び立たなければならない理由があるのだ。その理由はもちろん語る類のものではなく、このアルバムの中に存在するのだ。聴くべし。
おすすめ度★★★★(04/11/14)




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